「夢にも米が出てきます」近江米の開発担当者に聞いた
新品種誕生の裏側にあるディープなお話
近江米新品種プロジェクト#02
どこまでも広がる田園風景の中で、ただいま滋賀の新しいお米を開発中。
2024年にデビューする新品種の誕生秘話を田んぼの前でインタビューしてきました。
「夢にまで米が出てくる」開発担当者の熱意はいかに......?
聞き手は、しがトコの林代表がつとめます。
田園風景が広がる「滋賀県農業技術振興センター」
訪れたのは、滋賀県近江八幡市大中。どこまでも見渡す限り、田園風景が広がるロケーションの良い場所です。
その中心部にある「滋賀県農業技術振興センター」は、農作物の栽培技術や品種に関する研究をはじめ、なんと農業大学校も併設しているのだそう。
今回は、そんな農業技術振興センターにおじゃまして滋賀の新しいお米についてあれこれインタビューしてきました!
お話をお伺いするのは、吉田貴宏さん。
滋賀の農作物の栽培技術や、品種に関する研究を行っている専門員です。
"吉田貴宏(ヨシダタカヒロ)
滋賀のお米を研究し続けて20年。お米を観察しすぎて「夢にまで出てくる」毎日を送っている吉田さん。お米のことになると思わず前のめりで話し出す、熱血漢の栽培研究部専門員"
しがトコ林:吉田さん、よろしくお願いします!
吉田:はい、よろしくお願いします。
しがトコ林:滋賀県が新しいお米をつくると聞いて今回はおじゃましました。そもそも、なぜ新品種を?
年間10万トン!お米を食べる量が減っている
吉田:お米の需要がどんどん減っていまして。日本人、一人ひとりが食べる量も減っていますし人口も減っていますよね。
しがトコ林:はい。
吉田:国全体では年間10万トンのペースで減っているんです。
しがトコ林:10万トンですか?!
吉田:滋賀県で1年間につくるお米の量は約15万トンぐらいなんです。
しがトコ林:はい。
吉田:国全体で、毎年滋賀県でつくるお米の3分の2ぐらいはもう要らなくなってきているんです。
しがトコ林:お米がどんどん余ってきている?
吉田:そうなんです。
しがトコ林:そういうことですか......。
吉田:だけど、滋賀県で半分は森林。6分の1は琵琶湖。残りの内の30%以上が田んぼなんです。
しがトコ林:見渡す限り、ここもそうですけども、田んぼばかりですもんね。
吉田:これだけ水田があるのなら、お米はつくり続けたいんです。だけど国全体ではお米がいらなくなってきている。やっぱり滋賀県のものを、ほかの産地より優先して買っていただきたいわけです。そこにものすごい産地間競争がありまして。
吉田:栽培技術も大事ですけども、品種が1番大事ということで、品種は独自で開発していこうと。
しがトコ林:品種改良はどれぐらいの時間がかかるのですか?
夢に米が出る?!新品種誕生の裏にある何十年もの苦労
吉田:今回、新しく品種にしようとしているものは、2009年に交配したので13年になりますかね。
しがトコ林:13年間かけて!それって吉田さんがずっとひとりで?
吉田:いや、ひとりではやってなくて、交配の時、私はこの職場におりませんでしたので、途中で材料を引き継いで。
しがトコ林:では代々前任の方から研究を引き継いで、後任の方に。もうそれも含めて1番苦労されたポイントって?
吉田:そこが1番難しくて。なんでしょうね、大変なんですけど、何が大変なんだろうなと思うと......。
しがトコ林:もうずっと大変ってことですね。
吉田:そうなんですよね(笑)
吉田:田んぼでの仕事って、雨の日もあれば寒い日も、暑い日もある。でもたくさんの稲を、たくさんの田んぼを使ってやらなきゃいけないので。場合によっては合羽を着ながら鼻水垂らしながら......。
しがトコ林:そんな日もあるんですね。
吉田:ものすごいたくさんのお米を観察するので、夢にも米が出てくるんですよ。目に焼きつきすぎて......。米に襲われそうな夢が(笑)
しがトコ林:そんなにも!
吉田:そういう毎日を繰り返して、積み重ねていくのが品種改良の大変さかなとは思いますね。
明治28年から始まった品種改良
しがトコ林:滋賀を車で走っていると田んぼがきれいに見えますが、あの風景を守るためにも、新品種は必要なんですね。滋賀県の品種改良は昔からされているんですか?
吉田:そうですね。明治28年、農事試験場が設置されて以来、品種に関する研究はずっと進められてます。
しがトコ林:具体的にどんなことを?
吉田:基本的には2つの品種、良いもの、良い品種を掛け合わせて、その中から出てきた子どもから、より良い子どもを選んでいく作業になります。
しがトコ林:なるほど。
吉田:1年目はまず人工交配を行います。
しがトコ林:それはどんな掛け合わせを?
吉田:ただ掛け合わすだけでは上手くいかないことも多いので、温湯除雄(おんとうじょゆう)という方法を使って、父親となる品種の花粉を上手く掛けるようにしてやったり。
"43度のお湯に7分間浸すことで、母親となる稲の花粉を失活させる「温湯除雄(おんとうじょゆう)」という方法"
吉田:あとは、強制的に夜の時間を長くして、咲く時期が違う花を、なんとか掛け合わせをしたり。年間でだいたい40〜50種の組み合わせは実施していますね。
しがトコ林:なるほど。
吉田:2年目は田んぼで育てます。3年目は世代促進温室というところで、1年間に3回栽培を行います。
しがトコ林:1年間に3回?!
吉田:稲は1年に1回しか作れないので、時間がかかってしまう。温室を使うと1年に3回つくることができます。1年に3年分をやってしまおう!と。それで品種改良の時間を短縮する。そういうことを行っています。
滋賀の"環境こだわり栽培"は日本一!
しがトコ林:今回は、どういう品種を作られているのでしょう。「みずかがみ」とはまた全然違う品種?
吉田:取れる時期が少し遅めでして、9月の半ばに収穫できる、とても美味しい品種というのが1番のポイントかなと思ってます。
しがトコ林:独特の作り方でされてるというのをお伺いしたのですが。
吉田:ただ単に美味しいだけじゃなく、滋賀県は、全国的に見ても環境に配慮した「環境こだわり栽培」というものにすごく力を入れて、推進していますので。
しがトコ林:スーパーでも「環境こだわり農産物」のロゴマークよく見ますね。
吉田:有機質肥料に限って栽培して、農薬の使用量もできるだけ減らして、こだわって作ったものを販売していく。そういう形にできないかと、現在、取り組みを進めています。
しがトコ林:滋賀県は環境こだわりの率がすごいという話は伺ったことあるんですけど。
吉田:滋賀県の稲の作付面積のうち、環境こだわりに取り組んでいただいてる面積は44%になってまして。
しがトコ林:44%もあるんですか!
吉田:これって、もう全国ではありえない数字で。
しがトコ林:だから半分ぐらいの田んぼは環境に配慮して作っている?
吉田:そうですね。他府県だと多分10%もいかないですね。滋賀県だけで、全国のかなりのシェアを占めてるんですよ。
しがトコ林:それはもっと声を大にして言っていきたいですよね。
吉田:やっぱり滋賀県は琵琶湖を抱えていることで、琵琶湖と、その周辺の地域の環境を守っていきたいという思いが強いですね。これだけの数字が上がるのは、農家さんの意識が高いという表れなんじゃないかと思ってます。
しがトコ林:今後つくられる新品種も、環境にこだわった作り方でやっていくという感じなんでしょうか。新品種のデビューは、2024年?
吉田:再来年の秋には販売できるように取り組んでいるところです。
しがトコ林:滋賀県が全国的にも環境にこだわっているお話は、とても衝撃でした。新しい品種がどんな風になっていくのか楽しみです!今日は貴重なお話聞かせていただいてありがとうございます。
吉田:ありがとうございました。