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よみがえった郷土の野菜、北之庄菜を手にする奥野さん

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北之庄菜(きたのしょうな)

北之庄菜(きたのしょうな)

~訪ねた人:「北之庄菜 郷(さと)の会」奥野さん~

何十年ぶりかで復活した地元の伝統野菜。
この味を全国の人に知ってもらうのが夢です。

よみがえった郷土の野菜、北之庄菜を手にする奥野さん。

おばあさんのマッチ箱の中に種が...

何十年もおばあさんのマッチ箱の中に眠っていた種がふとした偶然から発見され、21世紀の現代によみがえった。そんなおとぎ話のようなエピソードを持つ野菜が、いま、滋賀ではちょっとした評判です。名前は、「北之庄菜(きたのしょうな)」。その名の通り、水郷で有名な近江八幡市の北之庄地区で江戸末期から栽培されてきた伝統野菜です。

「北之庄菜はかぶの仲間で、もともとは農家の漬物用としてほそぼそと自家栽培されてきた野菜やったんです。そやけど最近では漬物を漬ける家も少なくなってしもて...。昭和40年頃には自然消滅してしまったといわれています。私も子どもの頃に見たくらいで、長らく忘れておりました」
そう話してくれるのは、北之庄菜の栽培農家12軒で作る「北之庄菜 郷(さと)の会」に所属する奥野さん。

そんなに珍しい北之庄菜とは、どんなカタチをしているんだろう? 期待をこめて見ていると、土の中から出てきた北之庄菜は...ちっちゃくてお尻がずんぐりして、茎の部分がほんのり赤紫がかって、なんだか可愛い!ずんぐりしたミニミニ大根、という感じ。しかも葉っぱがふさふさしているし!

「北之庄菜はなぁ、1個ずつ顔が違うんや」
ほらな、と次々に抜いていってくれる奥野さん。なるほど、お尻が太ったのや細いの、先っぽが2つに割れたものなど、太さも長さもまちまち。このへんが、「在来種の性格がまだまだ強い伝統野菜」なのだそう。それゆえ形を揃えて出荷するのがなかなか大変だそうですが、でも、それも含めて北之庄菜の個性といえるでしょう。

葉も入れて約500gが出荷の目安 光があたる地上部は紫紅色で地下部は白色 (左)これくらいが食べごろ。葉も入れて約500gが出荷の目安。
(右)北之庄菜はかぶの仲間。光があたる地上部は紫紅色で地下部は白色。

味が評判を呼び、町おこしの「顔」に

平成13年に北之庄菜が再発見され、地域ブランドとして推進しようというプロジェクトが始まりました。
北之庄菜に町おこしの強い期待がかかったのは、伝統野菜という珍しさはもちろん、その味の良さも再発見されたから。近隣の日本料理店やホテルでは、北之庄菜を使ったさまざまなメニューが次々と考案されています。

「私も自分で食べて感じるんやが、北之庄菜は確かにおいしいんやな。適度な甘みや苦み、辛味があって、専門家によると、料理法によってそれらを個々に引き立てることができるらしいんです」

奥野さん自身は、薄くスライスして薄口(「濃口ではアカン!」)しょうゆを少しつけて食べたり、かまぼこなどを挟んで食べているのだとか。ほかにもポトフなどもおすすめだそう。さらに北之庄菜は、大きな葉っぱも大事な食材。生のままでは野草っぽい"えぐ味"がありますが、油で炒めるとこれがおいしい味わいになります。

肉質は緻密で適度な触感がある 肉質は緻密で適度な触感がある。
生だと辛味も少なく素直な味。火を通すとやわらかでやさしい味わいに。

栽培面積を増やすのが目下の課題

北之庄菜は「粘土質で排水の良い、有機物の多い土」が適地。種まきから収穫まで、約2カ月で成長します。8月下旬くらいから始めた種まきは、以後、収穫をずらすように9月末頃まで続けられ、11月~12月が収穫の旬。1月末くらいまで収穫できるのだそう。

栽培で大変なのは、まず、病害虫の防除。「この畑には他にも野菜を作っておるんやけど、おいしいのか北之庄菜がいちばんよく喰われる」と苦笑する奥野さん。
また、北之庄菜は、太陽の光を浴びないと茎部分のきれいな赤紫色が出ないので、こまめに葉を間引く必要があります。さらに一番の手間は出荷にあたっての洗浄。ねばりがなくパリッとした葉を傷めないよう(葉も大切な食材なので)、1本1本手洗いしているのだとか。

「これが時間がかかる!冬になると水も冷たいし、みんな嫌がるしねえ」と、奥野さんはため息をつきつつ、
「そやけど栽培するのは楽しいねえ!暑い時はしんどいけれど、珍しい野菜やし、実際に食べるとおいしいし。何より周囲が喜んでくれるのがうれしいねえ!」と、破顔一笑。手間をぼやきつつも、復活した郷土の伝統野菜が愛しくて仕方ない様子。

こまめな葉の間引きや病害虫の防除など、栽培には手間がかかる この大きな葉もおいしい。ただし、こまめな葉の間引きや病害虫の防除など、栽培には手間がかかる。

現在、北之庄菜は会員仲間で計3反ほど栽培されていますが、あちこちから問い合わせが多く、品切れ状態。
「滋賀県の大切な伝統野菜やからねえ。ちょっと大きなことをいわせてらえれば」と少しはにかみつつ、「もっと栽培面積を増やし、いずれは全国発送できるシステムを作って多くの人に北之庄菜を食べてもらうようになること。それが私の夢です!」
最後に大きく胸を張った奥野さんでした。

お問い合わせ:JAグリーン近江営農事業部特産振興課(電話:0748-33-8454)

(取材日 2011年11月14日)

北之庄菜の新しいおいしさ、発見!

北之庄菜を家庭で手軽においしく食べていただけるよう、生産者と「おいしがうれしが」キャンペーン推進店との協働の取り組みの中で新しいレシピが生まれています。ぜひ一度、お試しください。