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2018年2月の特集 ホンモロコ【産地レポート】ホンモロコ

産地レポート ホンモロコ

ホンモロコ、琵琶湖に棲む固有種でコイの仲間。2月になると北湖と呼ばれる深層域で、じっと身を潜めて越冬しています。水圧で身が締まり、1年の中でも一番脂がのって美味しい時期で『寒モロコ』と呼ばれています。

炭火の網焼きにすると脂がしたたり落ちるほどの脂ののりよう。そんな旬のホンモロコも琵琶湖の様々な変化により漁獲量が大幅に減少し、さらに希少価値の高い湖魚になっています。 今回は、沖島漁業協同組合会長の奥村繁さんに、ホンモロコとそれを取り巻く琵琶湖の環境についてお聞きしました。

琵琶湖で最も美味しい湖魚の1つと言われているホンモロコ。
琵琶湖で最も美味しい湖魚の1つと言われているホンモロコ。

毎朝、暗いうちから夫婦で漁へ

「白波が立ってるやろ。こんな時は漁に出られないんや、風があるから」と奥村さん。おだやかに見える琵琶湖もよく見ると小さい白波が立っています。取材当日は西風があり、漁が中止。いつもは日曜日以外、朝の6時頃からご夫婦でめざすポイントへ漁に出かけます。日が昇らないまだまだ薄暗い中で沖曳き網で漁が始まり、10時半まで魚を捕り、11時半頃に能登川港で水揚げします。

琵琶湖の漁師さんは夫婦二人三脚で漁に出ることが多い。
琵琶湖の漁師さんは夫婦二人三脚で漁に出ることが多い。

「沖曳き網」で捕れるのは、8月1日から4月30日まで。それ以外の期間、「沖曳き網」は禁漁となり、変わりに「刺し網」などの漁法を使います。
「沖曳き網」は、漁船から網を水中に入れ、くるりとU字型にはり、30~40分ほどで引き寄せて漁獲する方法です。多い人では1日7~8回ほど網を仕掛けます。引き上げた後は、網にかかったさまざまな魚を船の上でトロ箱に仕分けます。ピチピチとはねる魚を瞬時に手際よく仕分ける様子は気持ちいいほどスピーディ。この仕分け作業が早い人ほど、網を仕掛ける回数が多くなるんだとか。
漁獲量は、大漁のときもあればそうでないときもあり、流木で網が破れて漁にならないときも。日々、変わる漁獲量は一筋網ではいかない、自然と漁師との闘いを感じる瞬間でもあります。

網の仕掛けは体力勝負。網は約30~40mあり、約850mの太いロープが付く。
網の仕掛けは体力勝負。網は約30~40mあり、約850mの太いロープが付く。
日々変わる漁場を経験と探査機で探る。狙う魚が違うとポイントもさまざま。
日々変わる漁場を経験と探査機で探る。
狙う魚が違うとポイントもさまざま。

今が旬!『寒モロコ』が一番旨い!

2月のホンモロコは『寒モロコ』と呼ばれ、水深90mくらいの水温が安定している深層域で、寒い冬が過ぎるのをひたすら待っています。水圧で身が締まり、脂がのって一番美味しい時期だそう。その後、早ければ2月から5月くらいまで産卵のために浅瀬に移動。能登川、大同川などの葦簀(よしず)の根に卵を産みつけます。桃の節句の頃、卵を持ったメスのことを『ヒナモロコ』と呼び、産卵後の初夏の頃は『夏モロコ』の愛称で親しまれています。

「ヒナモロコは、食べると卵が口に広がって、卵の食感が楽しめるな。夏モロコは産み終えた後で体力を消耗しているから淡泊な味やわな」と奥村さん。年中捕れるホンモロコは愛称も変わり、味も少しずつ変化するので、季節に応じて楽しめる湖魚なのです。

昔は、正月やもてなし料理で食べていた贅沢品

ホンモロコは、小さいもので体長4~5㎝、大きいもので12~13㎝あります。湖魚の中でも高級魚として知られ、味も旨みがあり、淡泊というよりはコクのある味わいです。「昔は、正月にホンモロコを焼いて食べる習慣があったね。贅沢品やった。大事なお客さんを家に招いたときもホンモロコの網焼きを出して、もてなしとったね」と奥村さん。ホンモロコは、昔から贅沢なハレの日の食材だったようです。

体長5~6㎝の『寒モロコ』。周りにいるのはスジエビ。
体長5~6㎝の『寒モロコ』。周りにいるのはスジエビ。

地元では、網焼きにして酢醤油や生醤油、酢味噌などで食べます。時には南蛮漬けや天ぷら、飴炊きにすることもありますが、獲れたての新鮮なものを、さっと焼いてそのまま味わうのが一番美味しい食べ方だそう。奥村さんの好きな食べ方はバター焼き。「骨までやわらかくなって、まるごと食べられる」と教えてくれました。脂とバターの絶妙なからみは想像するだけで美味しそうです。

ペアのウエアを着たご夫婦は、漁でも息の合った仕事ぶりがお見事。
ペアのウエアを着たご夫婦は、漁でも息の合った仕事ぶりがお見事。

一時はホンモロコも絶滅の危機に!

現在のホンモロコの漁獲量は、14トンあまり。平成6年頃までは200~400トンと横ばい状態にありましたが、その後、5トン程度まで減少しました。その原因の一つに、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚の繁殖がありました。外来魚は昭和の終わり頃に発見され、瞬く間に増え、有害魚として駆除が始まりました。固有種は一時絶滅の危機に瀕したところから回復しましたが、漁獲量はまだ伸び悩んでいます。
ホンモロコの資源回復のために漁師と県の二人三脚で現在さまざまな取り組みを行っています。その一つにホンモロコの人工孵化があり、稚魚や卵の大量放流を実施。人工孵化で親を増やして天然孵化へとつなげようと取り組んでいます。
「現状取り組んでいる人工孵化が自然の孵化につながれば一番いいんですけどね。いい方向に少しでもつながるよう、日々、頭を悩ましています」と奥村さん。ホンモロコをはじめ、湖魚の未来を明るく照らし出す、そんな対応策を漁師と県が一丸となって模索しています。

沖島に生まれ育って70年。琵琶湖を愛してやまない奥村さん。
沖島に生まれ育って70年。琵琶湖を愛してやまない奥村さん。