2017年6月の特集 アドベリー【産地レポート】アドベリー
高島市安曇川町の特産品として知る人ぞ知る『アドベリー』。
『アドベリー』とは、「ボイズンベリー」という日本ではほとんど栽培されていない果実を安曇川町の特産品とするため、多くの方に親しまれる愛称として命名したものです。
熟すと黒っぽくなる大粒のベリーで、ぶどうをミニチュアにしたような実。
アントシアニンや葉酸をたっぷり含む、体にうれしい果実です。
収穫期が6月中旬頃から2週間ほどしかないため、とても希少価値の高い"幻の果実"として人気があります。
今回、高島市安曇川町の『アドベリー』の栽培農家であり、加工品の製造・販売もされ、アドベリー生産協議会の会長でもある永田勝己さんに『アドベリー』についてお話を伺いました。
安曇川町で育つベリーだから『アドベリー』とネーミング
自然豊かな地で知られる高島市安曇川町。同市の特産品である『アドベリー』は現在6軒の農家で栽培されています。「今年は、いつもより1週間ほど収穫が遅れそうかな」と永田さん。取材時は400本ある『アドベリー』の実はまだ緑で、ここから、ピンク、赤、紫、黒へと色が徐々に変化し、果実が熟していきます。
収穫は黒に変わる少し手前で、毎日120kgから130kgほど手摘みされます。そのうち1割程が道の駅へ出荷され、後はすぐに冷凍されます。なんと言っても『アドベリー』は2週間しか収穫されない上に、日持ちしない希少な果実。生果実はここ安曇川でしか食べられないそうです。
甘さの中に強みのある酸っぱさ、暑い時期には口の中が爽やかに!
美味しい『アドベリー』の見分け方は、色が黒くて、実が大きいもの。1粒が大きい方が、芯が残りにくく甘くて美味しいそう。味は酸っぱさがやや強く、爽やかな甘さ。すっきりとした味わいは、暑くなるこの時期に適した美味しさです。
「若い(赤い)実を焼酎や日本酒に漬けシロップにして、炭酸で割ったらきれいなピンクで味も爽やかで飲みやすいですよ。あと、煮詰めてピューレ状にしたものをかき氷にかけたり、冷凍した果汁をかき氷器で削るともっちりとしたかき氷になりますよ」と永田さん。この食べ方ならこれからやってくる暑さも吹っ飛びそうです。
農園の入口の「アドベリー生産協議会」の看板がお出迎え。
大粒の緑の実でこれから熟します。よく見ると茎にトゲがあります。
道の駅のオープンがきっかけで栽培がスタート
永田さんが『アドベリー』栽培を始めたのは平成15年。きっかけは平成18年に「道の駅・藤樹の里あどがわ」のオープンに合わせて、高島市の特産品をつくりたいと商工会の働きかけがあったから。最初はニュージーランドから「ボイズンベリー」の苗をもらい、栽培が始まりました。この時、ニュージーランドに研修に行ったり、ニュージーランドの農家を招いて栽培法を学んだりして、まる3年を育成に費やしました。
『アドベリー』は、1年目2年目は株の養成で収穫はできず、3年目から本格的に収穫ができるようになります。水に弱く、雨に当たると腐ってしまうため、永田さんの畑ではシートで天井を作り、木々を守っています。また美味しく育てるためには、「あまり水をやりすぎないこと。水っぽくなると甘くならず、味が落ちるから」と永田さん。「米農家なので、稲わらを防草シート代わりに使い、その上から鶏ふんや牛ふんをまきます。農薬や化学肥料を使わず育てるようにしていますね」と永田さん。2週間という短期収穫が功を奏して、梅雨の時期でも一切消毒はせず。なんとか最後まで持ちこたえてくれるそうです。自然に近い状態で育っているので安心して食べられるのがうれしいですね。
"とっと工房"で『アドベリー』の加工品を作っています。
『アドベリー』畑から少し離れたところに農産物加工施設"とっと工房"があり、『アドベリー』の加工品が作られています。この地域で農繁期のお手伝いをする人のことを昔から"とっと役"と呼び、その名を工房につけたそう。主に『アドベリー』のソースや濃縮果汁、ジャムなどを作っており、道の駅はもちろん、滋賀や京都のレストランなどにも卸しているそうで、特に『アドベリー』の3倍濃縮果汁は問い合わせも多く、料理の可能性が広がる1本として注目の商品だそう。
「加工業者さんは多いので、栽培の後継者を育てたい。20~30本の株から始めてくれる栽培農家さんがいればいいんですけどね」と永田さん。栽培を始めてから15年。後継者育成がこれからの課題です。「名前に安曇川町のアドが付いているので、安曇川町を代表する果実。名前に負けず、誇れるようなものを作っていきたいです」。
『アドベリー』の未来にまだまだ期待が膨らみます。
解凍された『アドベリー』。生果実はもっと黒い実。
"とっと工房"でアドベリーのピューレを作っています。
アドベリーの飲むゼリー(左)と濃縮果汁(右)。他にもジャムやドレッシングなど加工品も豊富です。