2017年11月の特集 かぶ【産地レポート】かぶ
滋賀には、一般的な白かぶ、赤かぶの他に、近江の伝統野菜でもある日野菜、北之庄菜、赤丸かぶ、万木かぶ、小泉紅かぶらなど多彩な品種があり、秋になると県内各地で収穫が始まります。国内でもこれほど多様なかぶを栽培されている県は珍しく、滋賀県は「かぶ王国」と言われるほどに。
今回、旬を迎えるこの時期に赤かぶを栽培されている「グリーン・ファーム湯ノ口」さんにお邪魔してお話を伺いました。
収穫したてのあかくら蕪。こぶしくらいの大きさで根は柔らかさがある。
80アールの畑であかくら蕪とつがる紅を作っています。
きれいな赤紫色に染まり丸々とした赤かぶ。鮮やかな発色には目をみはるものがあります。この赤かぶを栽培されているのが、東近江市にある「グリーン・ファーム湯ノ口」の湯ノ口絢也(ゆのくちじゅんや)さん。米、麦、野菜などをご家族と従業員で栽培されており、野菜担当が絢也さんです。
水で洗うと鮮やかな色に。茎が緑色のあかくらかぶ(上)。茎が赤紫色のつがる紅(下)。
「あかくらかぶとつがる紅かぶの2品種を作っています。あかくらかぶは生で食べるとジューシーで甘みがあって、柿のような食感です。つがる紅かぶは、あかくらかぶより根は硬く、シャキシャキとした食感で漬物に向いていますね。お日さまを浴びるほど色素がどんどん増していきます。」と絢也さん。現在、栽培面積は80アールあり、あかくらかぶが60アール、つがる紅かぶが20アールとなっています。
赤かぶの栽培は、8月下旬から10月上旬までが種まきで、その後、間引きや害虫対策など手を掛けながら生育を見守ります。10月下旬頃からいよいよ収穫が始まり、2月いっぱいまで続きます。生食または加熱するなら鮮度の高い10月から12月くらいまでのもの、2月頃のものは漬物におすすめです。出荷先は主に京都中央卸売市場ですが、近隣の直売所や平和堂フレンドマート能登川店などにも「味に恋して」のブランドで販売されています。
1株1株手作業で収穫し、自動運搬車の上に積み上げていく。
減農薬栽培と、そのための土壌作りにこだわっています。
赤かぶを作り始めたきっかけは、漬物の材料にしたいと京都市場から要望があったため。高校、大学と農業専攻で特に野菜について勉強してきたので、その学びを活かし、県のすすめる"環境こだわり農業"を取り入れながら、減農薬にこだわった赤かぶづくりを始めました。
基本的に肥料は、土づくりの時に1回だけ使い、なるべく追肥しないように心がけているそう。肥料が多くなると苦みの原因にもなるからです。とは言え、暑いと害虫が多くなり、逆に寒いと実が育たず、色も付きづらいので、天候が生育に大きく影響するときは、追肥する場合もあります。長年の経験と勘で、天候を見極めながらなるべく追肥に頼らず、手をかけて細やかに調整しながら栽培しています。
土からすぽっと簡単に引き抜ける。
中身はどちらも白い。
また土作りにも工夫があります。有機肥料を使って土を耕し、水はけの良い土壌作りを行っています。最近は豪雨による水害が多いので、畝と畝の間の谷部分には水が溜まらないように、水はけの良い構造の畝(うね)を立て、対策としています。知恵と工夫で、琵琶湖周辺の環境にも、人にも、赤かぶにもやさしい栽培法を考え、手間をかけて育てています。
画面右側には水路があり、溜まった水が水路に流れるよう畝が設計されている。
野菜ソムリエの資格を取得し、新しい食べ方を提案。
"赤かぶで新しい食卓を"の見出しが書かれた湯ノ口さんお手製チラシをいただきました。
「赤かぶと言えば漬物で食べるイメージですが、このイメージを変えたいんです。普段の食卓に料理として出てくるような野菜にしたいですね。そのため野菜ソムリエの資格を取り、新しい赤かぶの食べ方を飲食店やスーパーにも提案をしています」と湯ノ口さん。
例えばどんな料理があるのかを聞いてみると「生食ではサラダで甘みと食感を楽しめます。天ぷらにすれば上品な甘みが美味しいんです。あと焼肉のときの焼き野菜に加えてもいいですね。さまざまな料理に合うような味に仕上げています」とのこと。
湯ノ口さんの作る赤かぶは、加熱すると甘みが増し、とろりとした食感となり、生食とはまた違う味わいを楽しめます。赤かぶの根は、ビタミンC、カルシウム、食物繊維、アミラーゼを含み、葉にはβカロテン、ビタミンA、B1、B2、C、カリウム、カルシウムなどビタミン・ミネラル類が豊富で、炒めものや炒飯に混ぜるなど捨てずに食べるのがおすすめです。
湯ノ口さんは生産者の中でも若手。若いパワーで農業のやりがいや面白さを積極的に伝える活動を行っている。
若い人に農業のやりがいや楽しさを伝えたい。
最後にこれからのことをお聞きすると、「今、学校などで講演をしたり、学生の農業研修を受け入れたりしています。講演では、農業の魅力や野菜の食べ方を伝え、研修でも農業の魅力はもちろん、やりがいや面白さを伝えて、若い人の農業のなり手を増やしていきたいと思います」。
今後の夢は?の質問に、「将来を担う、若い世代の<なりたい職業トップ10>に農業が入るようにしたいですね。そのためには、我々がみなさんに喜んでいただける農産物を作り、経営者としても頑張っていくことが大切だと感じています」との答え。湯ノ口さんが作る赤かぶに県内外で出会える機会が増えそうです。