2016年9月の特集 弥平とうがらし【産地レポート】弥平とうがらし
滋賀県湖南市に古くから伝わる伝統野菜「弥平とうがらし」は、
なんともいえない清涼感と独特の辛味が特徴です。
地元の家庭では、あたりまえのように存在していた「弥平とうがらし」ですが、
近年、商品開発が進み、地元から全国へと注目されつつあります。
そのブームを作ったのが"農業女子"エフエムクラック。
新たな視点をいかした開発ストーリーと、
「弥平とうがらし」の栽培を支える地元農家の谷さんにお話を伺いました。
激辛だけじゃない!香り・辛み・旨みの三拍子がそろった「弥平とうがらし」
オレンジ色の可愛らしい見た目ながら、とっても辛い!
唐辛子の辛さを表す単位として「スコヴィル値」というものが使われますが、弥平とうがらしの辛さはなんと100,000スコヴィル!タバスコが30,000スコヴィル、タカノツメが50,000スコヴィルなので、その辛さは歴然です。しかし、弥平とうがらしの特徴はその辛さだけではありません。ピリッとした辛さの中に、芳醇な香りと旨味、そしてなんともいえない清涼感が口いっぱいに広がります。実は、糖度が11.5度もあるそうです。
古くから栽培されていた地元の伝統野菜
地元の特産品、下田なすや弥平とうがらしを栽培している谷とき江さん
弥平とうがらしのルーツは今から100年以上前、湖南市下田の弥平さんが持ち帰ったものといわれています。これを下田なすの漬物と一緒に入れた美味しさから、地元では畑の隅っこで少量ずつ栽培され続けてきました。下田育ちの谷さんにとっては「家の軒先に弥平とうがらしがぶら下がっているのは当たり前の光景」だったそうです。
水に濡れてツヤツヤと宝石のように輝く弥平とうがらし
弥平とうがらしを長期保存するために乾燥させます
とうがらしは積算温度で完熟するので、夏の暑さは必要不可欠。けれど今年のように晴天続きで水が不足すると枯れてしまいます。「葉っぱの元気がなくなってね、今年は2度ほど畑を水に浸しました」と谷さん。植物の様子で異変を感じとる、ベテランならではの見極めです。
農業女子のアイデアを形にした新しい「弥平とうがらし」
軽快な手さばきで、弥平とうがらしを収穫するエフエムクラックの佐々木由珠さん
下田なすの脇役として栽培されていた弥平とうがらしに着目したのが、エフエムクラックの佐々木由珠さんと三峰教代さんでした。それぞれ東京と大阪で働いていた2人は、滋賀県の職業訓練コースで出会い、意気投合。農業をビジネスとして捉え、エフエムクラックを設立しました。農業に関しては素人同然の2人。「付加価値のある野菜を作って勝負しよう」と目をつけたのが、三峰さんの出身地・湖南市に伝わる下田なすでした。
「そのとき農家さんに『これも一緒に植えとき!』と渡されたのが弥平とうがらしの苗でした。最初は『とうがらしってそんなに興味ないなぁ...』くらいに思っていたのですが、この弥平とうがらしこそが私たちにとって運命の野菜だったんです!」と佐々木さん。
「脇役だった弥平とうがらしを主役にしたい」と話すエフエムクラックの佐々木由珠さん
弥平チリトマトカレー、スイートチリソース、ぴりり(インディアンスパイシー)など加工品を開発
収穫・販売時期が限られる下田なすと違い、貯蔵ができて加工しやすいと、それまで誰も着目してなかった弥平とうがらしの商品化に取り組み、次々と新商品を開発。これが評判となり、度々マスコミでも取り上げられるようになりました。3年前からは弥平とうがらしを使った激辛料理NO.1を決める「弥平激辛サミット」が開催されるなど、湖南市の新しい名産品として注目さています。
「弥平とうがらし」の色鮮やかな畑で、町の景観を元気に
右からエフエムクラックの佐々木さん、谷とき江さんと、娘の香織さん
谷さんの畑でも、5年前から本格的に弥平とうがらしの栽培をスタート。現在は約150株を植え、収穫期には娘さんと2人で作業に追われます。「去年、エフエムクラックの畑が青枯れ病で全滅したときに谷さんが助けてくれて!それから仲良くお付き合いさせてもらっています」と佐々木さん。
「収穫が大変」と言いながらも元気いっぱいの笑顔が印象的なおふたり
色鮮やかなオレンジ色と緑のコントラストに目を奪われます
農業初心者だったエフエムクラックが、新しい感性で脇役だった伝統野菜を見事主役に盛り上げました。その陰には、地元農家さんの応援もありました。「もっと農家さんと横のつながりを作って、いつか湖南市に弥平とうがらしのオレンジロードができれば嬉しいな~」と、佐々木さんと、谷さん親子の間で話が盛り上がっていました。弥平とうがらし畑の鮮やかなオレンジは町の景観にも一役買ってくれそうです。