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2017年8月の特集 笠原生姜【産地レポート】笠原生姜

産地レポート ここでつくる!笠原生姜

緑の葉っぱの下に、小ぶりでほんのり薄桃色のみずみずしい生姜が顔をのぞかせています。これが『笠原生姜』で、葉生姜とも呼ばれます。辛みがあり、繊維が少なく、みずみずしい味わいは、夏場にぴったり。

ここ守山市笠原町では、江戸時代から続く伝統野菜として、現在10戸ほどの農家が『笠原生姜』を栽培しています。長年、地元で作り続けてきた角谷兵助さんの畑へ、お邪魔して、お話を伺いました。

取材時は台風が間近に迫り、あいにくの雨。水田の間の2畝で『笠原生姜』を栽培しています。
取材時は台風が間近に迫り、あいにくの雨。水田の間の2畝で『笠原生姜』を栽培しています。

夏でも食欲をそそる、清涼感のある香りと爽やかな辛み。

「種生姜の上に、新しい生姜が育って、その新生姜を小ぶりの状態で収穫したものが『笠原生姜』やな」と角谷さん。江戸時代から続く農家で、角谷さんは4代目です。

『笠原生姜』は、通常の種生姜と呼ばれるものよりもやや小ぶりで葉っぱが付いており、葉と生姜の間は紫がかったきれいなピンク色。生姜本体は、表皮が薄く色白でやわらか。生姜独特の爽やかな香り、ピリッとした辛みと繊維の少ない食感が特徴です。

生姜と言えば種生姜の印象がありますが、『笠原生姜』はとてもみずみずしい。「地下水を吸い上げて育つからやろな」と角谷さん。笠原町の土壌は、1mも掘れば地下水に行き当たり、非常に水分に飛んでおり、その水を吸いあげているからこそ、笠原生姜はみずみずしく育つそう。
砂地の田んぼの状態も、生姜を育てるのに適しており、江戸時代から続けて栽培されているのも、そのおかげだと言われています。角谷さんも、地下水と有機肥料で手塩にかけ『笠原生姜』をおいしく育てます。

下部にある黄土色の生姜が種生姜。この上に新しい生姜が生えてくる。
下部にある黄土色の生姜が種生姜。この上に新しい生姜が生えてくる。

くわでひとつひとつ穴を掘って種付け。かなりの重労働も一人で。

角谷さんは、100mの畝を2畝使い、一人で栽培しています。かつては1反(約1,000㎡)ほど栽培していましたが、81歳の今、ご自身で栽培できる範囲にとどめているそうです。

『笠原生姜』の栽培は冬からスタートし、3月下旬から4月初旬までは生姜に適した土づくりをします。
完成した畝に三角くわで穴を掘り、こぶし程度の間隔で次の穴を掘る、それを繰り返して種生姜を植え付けます。
5月下旬頃に発芽して芽が伸びてくると、その周りに有機肥料と土を盛ります。土の役割は、根元のピンク色の部分を鮮やかに色づけるため。この部分には着色効果があり、甘酢漬けのときにピンク色に染まるのも、この自然な着色効果のおかげです。
6月から8月までは、3回ほど追肥します。殺虫剤を使って害虫対策も行いますが、琵琶湖の環境を守るため、できるだけ使用を抑えるようにしています。
「害虫対策が一番苦労するね。虫がつくと葉っぱが黄色く変色して倒れてしまう。逆に、害虫の被害にあわず成長してくれたときはうれしいね」と顔がほころぶ角谷さん。青々とした葉っぱが勢いよく茂る8月上旬頃になるといよいよ収穫が始まります。

角谷さんのほ場
角谷さんのほ場。左側の高く盛られた2畝が『笠原生姜』、右がミニトマト、隣では米を栽培しています。

みずみずしいから生でも食べられます。

おいしい『笠原生姜』の見分け方を聞いてみると、「細長いものを選ぶとおいしいよ」とのこと。
根が大きく肥大したものは辛みが強いこともあるそうです。採りたては生でも食べられるほど、みずみずしく、香りも清涼で、シャキシャキとした食感の後からくるピリッと爽やかな辛みが癖になります。

「地元の人は、甘酢漬けで酒のつまみにしたり、甘辛い佃煮にして食べる」そうです。日持ちがしないので、保存できる料理で『笠原生姜』を長く楽しみます。生姜の辛み成分ジンゲロンやショウガオールには殺菌力があり、食欲を増進させる効果もあるので、暑い夏場の料理にはどんどん取り入れたいものです。

青々とした葉とピンクの茎が特徴の『笠原生姜』。
青々とした葉とピンクの茎が特徴の『笠原生姜』。水分を含んでみずみずしい。

小作人の生業のために始まった『笠原生姜』作り。

「昔は、作るだけじゃなく、天秤棒をかついで、八日市や近江八幡まで生姜を売り歩いていたんですわ。このあたりで作った米は、庄屋に収めていたので、小作人の生業として生姜を作り始めた。
どこの家庭でも梅干しと生姜は欠かせなかったので、需要があったんやろね。得意先もあったみたいですよ」と、先祖から伝わる話を聞かせてくれた角谷さん。

現在、『笠原生姜』を作る農家も高齢化が進み、伝統野菜の継承が難しくなっているそうです。
「今後は人手や設備も充実している農業法人が『笠原生姜』を作るようになってくれれば伝統野菜として守っていけるんじゃないかな」と、伝統野菜『笠原生姜』の将来に思いを巡らせる角谷さんでした。

1ヵ月後には82歳とは思えないほどお元気な角谷さん。
1ヵ月後には82歳とは思えないほどお元気な角谷さん。今も現役で農作業をこなします。