4月の特集 スジエビ
琵琶湖で獲れる小さな小さな食材、「スジエビ」。スジエビといえば、「えび豆」! ・・・というぐらい、滋賀ではポピュラーな郷土料理の「えび豆」。ハレの日には家庭で作られ、またお土産としても一押し。長く愛されてきた滋賀県民が誇るの伝統の味の一つです。
鮮度抜群、琵琶湖産のスジエビ
日本最大の湖、琵琶湖にすんでいるキュートな淡水エビ、「スジエビ」。
3cm~5cmほどの小ささで、なんでも胸にスジが見えるのがこの名前の由来だとか。
この「スジエビ」。滋賀県の郷土料理「えび豆」になくてはならない食材として、滋賀県民に親しみ深い湖の幸。
お話しを伺った今井政治さん 漁師暦45年!
そんな「スジエビ」についてお話を伺おうと、堅田漁業協同組合 副組合長の今井政治さんをお訪ねしました。
「スジエビが揚がったら家で炊くんよ。家で炊くとおいしいね!!」と開口一番。
殻をむかず、まるごと調理するのが「スジエビ」料理。お鍋にたっぷりスジエビを入れ、炊きあげると、小さくともエビはエビ。スジエビの芳ばしい旨みがジワーっと溢れ出します。
「スジエビはかき揚げもおいしいのよ」と今井さん。 確かに、サクサクした食感とスジエビの旨み!たまりません。
スジエビの漁獲のピークは1月~2月だそう。一時期漁獲量が落ちたスジエビですが、「去年ぐらいから復活してきました。今年は多いときは1日に150kgや200kg揚げて来てたなぁ」と喜ばれます。
「獲れたては透明感のある飴色。冬の最盛期は寒いから特に元気でね、港でもピチピチ跳ねて、トロ箱からこぼれるほど!」。
新鮮な琵琶湖産のスジエビは、市場でも評判が良く「琵琶湖のエビは色が違う、火を通したらピンク色のいい色にあがるって言われるんですわ」とニッコリ。
(左)活きたスジエビは飴色(右)火を通すと華やかに色が変わるスジエビ
漁港の一日
冬の朝、早朝の3時~4時頃に出港した船は、沖曳き(ちゅうびき)網漁(琵琶湖の沖合で操業する底曳き網漁の一種)でスジエビを捕まえます。
今井さんにお伺いすると、スジエビは水深50m~90mぐらいの、琵琶湖でもどちらかというと水深の深いところにすんでいるのだとか。
主な漁場は、琵琶湖北端の「竹生島周辺」や湖西沿岸の「小松沖」、「高島沖」などいくつかの好漁場があり、漁協ごとにおおよその漁場も決まっているのだそう。
多くの船が係留された堅田漁港
「エビはある程度集まっておるんよ。良い場所を見つけたら繰り返して行くのや。漁師は獲れる時期と場所を頭に入れていて、湖底からスジエビを見つけるんやね」。
昔はスジエビ以外の漁獲も多く、「なんでも良く獲れた。若い頃はようけ獲れたし、おもしろかったで~!」と豪快に笑います。
写真は競りに使う札 漁師さんたちの名前が書かれている。
取材に伺った日は天候が悪く競りもお休み。
やがて、10時~11時頃になると漁から船が港へ戻ってきます。そして、獲れたてピチピチのスジエビは競り(せり)売りされた後、出荷されていきます。
堅田漁業協同組合で昔から変わらず行われる競りは、琵琶湖では大変貴重な光景だそうで、今井さんによると「競りをしてるのは、堅田とあと1か所ぐらい」とのこと。
競りに参加されるのは、各店へ魚を卸す仲買さんたち。主に県内から来られており、魚を買い付けます。堅田漁港に揚がったスジエビは「京都の台所」錦市場へも出荷されていくのだそうです。
佃煮店 店主が語る滋賀の郷土料理「えび豆」
スジエビの食べ方と言えば、「えび豆」。
日本人が大好きなエビと大豆を、砂糖・しょう油・酒・みりんで炊き合わせた滋賀県を代表する郷土料理で、広く親しまれている一品。
軽く炊き合わせたものはおばんざいとして、しっかり煮付けたものは佃煮として、ご飯の友にぴったりです。
大豆はというと、琵琶湖の周囲に広がる農地での栽培が盛んで、滋賀県は関西で最も大豆栽培が盛んな地域。昔から法事やお祭りの食として、豆腐田楽や納豆餅などの大豆料理がたびたび登場しています。
滋賀で、スジエビと大豆が出会うのは必然! このような湖の幸と田畑の幸との組み合わせは、滋賀の郷土料理の特徴の一つになっています。
そんな「えび豆」のおいしい作り方を伝授していただくため、堅田漁港に程近く、名勝「浮御堂」のすぐ近くで湖魚の佃煮などを販売されている「魚富商店」の店主 竹端 尚さんをお訪ねしました。
スタッフがお店に近づいていくと、なんとも言えないしょう油の良い香りが、ふわりふわりと! そして店頭に辿り着くと・・・、なんとそこには「えび豆は数量限定!早い者勝ち!」のホワイトボードが!!
(左)名勝「浮御堂」近くの魚富商店(右)店頭にも本日のおすすめ「えび豆」の文字!
竹端さんは、魚富商店の4代目。買いに来ていただいた方に炊きたてを味わっていただきたいとのことで、水揚げ1時間以内の新鮮な地元の魚を使い、1日で売り切る量を見極めて炊くことを大事にされています。
もちろん、さきほどの堅田漁港の競りにも参加されています。
甘み控えめの魚富商店の「えび豆」 店によって味わいに違いがあるのも味わう醍醐味
魚富商店さんの「えび豆」の作り方は、スジエビと大豆を別々に炊くのが特徴。
「一緒に炊くと、豆だけ先に味が入るので・・・スジエビだけで炊いて、あとから炊き合わせるとどっちもベストな状態で仕上がるでしょ。うちのエビはしっかり炊いて色を付けて、甘さ控えめ。」と見せていただいたスジエビは、確かにおいしそうにしょう油がしみこんでいます。
(左)炊きあげたスジエビ 水・酒なし、秘伝の煮汁としょう油で味つけ(右)店主の竹端尚さん この大鍋で炊いているのだそう
スジエビの炊き方は?
「たくさんのしょう油に砂糖を入れて煮立たせます。煮汁が煮立っている状態にして、その煮汁の中でエビを泳がす感じですね」。
魚富商店さんの場合、一度に6kg~7kgのスジエビを45分間ほどかけて一気に炊きあげていくのだとか。また、色づきを良くするため、水や酒を一切使わず、煮汁で炊くのだそう。その煮汁、作り足して使い続けているもので、スジエビを炊くときだけでなく、大豆を炊くときにも少し使う、いわゆる秘伝の味。
「2時間ほど水に浸けて戻した大豆を圧力鍋で20分~25分ほど炊きます。それから、エビと和えて、作り足している煮汁と砂糖で伸ばして、もう一度炊き含めると味も良くしみこんでいきます」。
「自宅で炊く人も減ってますけどね」と竹端さん、一度試してみてほしい
「えび豆」は大豆の栄養と、殻までまるごと食べられるスジエビのカルシウムも摂ることができる、栄養のバランスもよい一品。また、"エビ"のように腰が曲がるまで"マメ"に暮らせるようにとの願いをこめ、ハレの日にも食べられる大変縁起の良い料理です。
「うちは観光地のそばにあるから、県外の方からはめずらしいとよく見てもらいますよ。各地に送っていて、ファンも多いです」と竹端さん。滋賀の味わいは全国へと広がっているようですね。
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