産地レポート

トップページ産地レポート6月の特集 魚のゆりかご水田米

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産地レポート

魚のゆりがこ水田米

福永務さん、福永章さん、今堀治夫さん
稚魚が安心して育つ環境は、安全安心なお米ができる環境

「やってみるか!」昔の田んぼ「里」を取り戻す取り組み

「昭和30年頃までの水田は、琵琶湖から直接水を引き込んでいましたから、田んぼにはフナやコイ、ナマズなどが普通におりました。私たちはよくそれらを捕ったものです。"おかずとり"といいました」
滋賀県東近江市栗見出在家町「魚のゆりかご水田協議会」顧問の今堀治夫さん(トップ写真右)は話します。
 「それが、ほ場の整備などによって、琵琶湖と水田が遮断されました。水田の生産性を向上させるとともに、琵琶湖の水質を守るための措置でした」
平成に入って、滋賀県ではかつての生命あふれる「里」の環境を取り戻し、子孫に引き継ぐ取組の一環として「魚のゆりかご水田プロジェクト」をはじめました。この話が栗見出在家町にもたらされたのは、8年前のことでした。
「私たちはもともと『環境こだわり農産物』に取り組んでいましたし "やってみるか"ということになりました」
栗見出在家町「魚のゆりかご水田プロジェクト」代表代行の福永章さん(トップ写真中)は話します。こうして、地域ぐるみの取り組みが始まりました。

フナ、コイ、ナマズが安心して育つ場所

マナマズの稚魚
写真は1cmほどに育ったマナマズの稚魚

湖から田んぼへ直接水を引き込み、魚を育てるためには、農薬や除草剤、肥料なども最小限にしなければなりません。営農組合長の福永務さん(トップ写真左)は話します。
「昔の農業に完全には戻せないにせよ、除草剤は低魚毒性のものにして使用回数も2回を1回にしました。また農薬も化学肥料も半分以下にしました」
5月、最初の大きな雨の日を待って琵琶湖から引き込んだ水路に設けた魚道から魚が水田に遡上します。水田で産卵するためです。
「遡上して産卵するのは、ニゴロブナ、ギンブナ、コイ、マナマズなどです。ブラックバスなどの外来魚は入ってきませんから、魚たちは安心して育つわけです」
文字通り「魚のゆりかご」です。

今堀治夫さんは語ります。
「魚を遡上させるためには、水の階段を作らなければなりません。段差を10cmごとにつけていくために、堰板という板を排水路(魚道)にはめていきます。4月の第一日曜日に地域総出でこの作業をやります。生産者だけでなく、勤め人の家も参加します。地域で環境を守っているのです」

田んぼに入ると、魚はすぐに産卵するのだそう。こうして田んぼで生まれた稚魚は、プランクトンを食べてすくすく育ちます。
6月半ばになると"中干し"といって、田んぼの水を一旦抜くことになり、魚は湖に返すことになります。
なんでも、魚を湖に返す際、堰板を外すときは地域の子どもたちが手伝うそうで、水路から稚魚がたくさん出てくると、子どもたちから大きな歓声があがるのだとか。

「魚のゆりかご水田」とは、地域全体が「魚のお母さん」となって、環境を守る取り組みでもあるのです。

「一筆魚道」という階段状の魚道
写真は「一筆魚道」という階段状の魚道

「魚のゆりかご水田米」は「琵琶湖への恩返し」

さて、こうしてできた「魚のゆりかご水田米」は、どんなお米なのでしょう。福永勉さんは話します。
「コシヒカリを作っています。魚が育つ環境を維持することが、安全安心な米作りにつながります。さらに丁寧な土作りをするようになったこともあってか、最近食味が良くなりました。お米作りには良かったと思います」
栗見出在家町の「魚のゆりかご水田米」は、オリジナルの米袋で販売されています。環境にやさしく、おいしいお米として好評です。


魚のゆりかご水田プロジェクト ※魚のゆりかご水田米の購入販売先が掲載中

JAタウン ※JAグリーン近江の魚のゆりかご水田米はコチラ


「栗見出在家町は、200年ほど前に彦根藩の命令で琵琶湖畔を干拓して生まれました。ここに近郷の農家の次男、三男が移り住んで米作りを始めたのです。農業は試行錯誤の連続でした。数十年前までは、まだ今日のような干拓はされておらず、大中の湖の湖底から藻泥をすくい取ってそれを田んぼに盛る作業をしていたくらいです。この地域の生産者は、少しでも良い米を作るために、工夫を重ね、努力をするのが当たり前になっていました。その勤勉さがあったからこそ、手間のかかる『魚のゆりかご水田米』も作ることができたのだと思います」今堀治夫さんは語ります。
「魚が住めるくらいきれいな水を琵琶湖に返して、良い米を作る。私たちは、滋賀県の農業を育ててくれた"琵琶湖への恩返し"をしているのだと思いますね」
「魚のゆりかご水田プロジェクト」のみなさんは、日に焼けた顔をほころばせました。

福永務さん、福永章さん、今堀治夫さん

栗見出在家町の「魚のゆりかご水田」の取り組み

栗見出在家町の「魚のゆりかご水田」の取り組み

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