2017年1月の特集 しゅんぎく娘【産地レポート】しゅんぎく娘
葉は柔らかく、ほんのり甘い。
お肉との相性もいいので洋風アレンジもおすすめです。
クレソンなどのハーブのように使えば
香りのアクセントで、お料理の幅も広がります!
春菊のイメージが変わる『しゅんぎく娘』は、
野洲市吉川地区で古くから自家採種で栽培されてきました。
この美味しい春菊を後世まで守り続けるため、
若手農家が「吉川野菜生産出荷組合青年部会」を発足。
会長の吉川英之さんにお話を伺いました。
春菊のイメージが変わる!生でも食べられる『しゅんぎく娘』
『しゅんぎく娘』の規格基準は23~26cm。適時に摘み取らないと伸びすぎて商品になりません
「違いがわかるから生で食べてみ!」そう言って、ハウスの中で吉川さんが春菊の葉を差し出してくれました。生の春菊を食べたことのない取材チームはしばし戸惑い、おそるおそる口へ。「あ!おいしい!」。
葉は柔らかく、口の中に甘みが広がります。想像していた春菊独特の癖はなく、爽やかな香りだけが口に残ります。生のままサラダに使ってもよし、お肉との相性もよいので炒め物や天ぷらも美味しいそうです。香りがアクセントになるので、クレソンなどのハーブのように使えば料理の幅もぐんと広がりそうです。
「いままでの春菊とは違うでしょ」と笑う吉川野菜生産出荷組合青年部会 会長の吉川英之さん(左)
吉川地区では昭和40年代頃から冬場の作物としてハウスで春菊が作られるようになりました。平成2年からは『しゅんぎく娘』のブランド名でグループでの出荷が始まり、京阪神へ出荷されています。「この地で育った種だけを代々受け継いで育てているから、よその春菊とはひと味違う!ここの土と春菊の相性がいいんでしょうね」と話す会長の吉川さん。
野洲市吉川は春菊の一大産地
すべて手作業で選別し、計量しながら黙々と袋詰めをしていきます
春菊は古来より薬草として利用された経緯もあり、独特の香りと苦みがあります。これを美味しいと感じるか苦手と感じるかは人それぞれ。しかし、野洲市吉川地区で生産されている『しゅんぎく娘』は、そんなこれまでの春菊の概念を変えてくれる逸品です。
選別する前の状態。ここから一つひとつ手作業で規格基準に合うよう選別します
出荷された『しゅんぎく娘』は滋賀・京都・大阪の市場、スーパーなどに流通しています
9月末に種を蒔き、収穫は11月~2月頃まで続きます。手作業で脇芽を残しながら摘み取っていき、収穫した春菊を家に持ち帰って選別し、計量しながら袋詰め...すべて手作業です。「広いハウスで黙々と作業。永遠に終わらないんじゃないかと思うこともあるよ...」と笑う吉川さん。手の速い2人がかりでも、1日に約100袋の出荷が限度だそう。
若手農家らが立ち上がり、新たな挑戦へ!
吉川野菜生産出荷組合青年部会のみなさん
後継者不足、担い手の高齢化で全国的にみても農業は大きな曲がり角に差し掛かっています。
「吉川野菜生産出荷組合」でも全盛期の1/3程度まで組合員は減少。組合員の平均年齢も70歳を超えました。そんな現状を少しでも打破し、次世代の農業を拓くため平成28年に設立されたのが「吉川野菜生産出荷組合青年部会」です。メンバーは30~40代の9名。
摘み取ったばかりの瑞々しい『しゅんぎく娘』
一般的な春菊より葉に丸みがあるのが特徴
春菊は伝統野菜のように、病害に弱いのが困りもの。平成27年には病害により近年まれにみる不作となってしまいました。吉川さんのハウスも1棟丸ごと全滅したとか...。これに危機感をもった青年部会の初年度の取り組みは、無病種子の確保でした。
この地ならではの種子で地域を元気に
黄色く可憐な春菊の花。ヨーロッパでは観賞用に栽培されるそうです
他のほ場(※)から離れた共同ほ場で種子採種用に春菊を栽培。品種を固定化するため周囲をネットで囲み、種子の交雑や病害虫の発生を防ぎます。採種した種子は炭疽病原菌を減少させるため最低1年間冷温倉庫で保管します。
また試験的に滋賀県大津・南部農業普及指導センターの協力のもと、70度の温風をあてて消毒する「乾温消毒」も実施しました。こうして種子の品質向上や無病種子の安定供給に取り組み、種子を持たない組合員や新規就農者にも分け、『しゅんぎく娘』を地域ブランドとして盛り上げていこうと青年部会の皆さんは意気込んでいます。
(※「ほ場」とは、作物を栽培する田畑、農園などの場所のこと)
「新しいメンバーを増やし、10年、20年と続けていきたい」と吉川さん
『しゅんぎく娘』のネーミングは、新鮮で若々しい商品、生産者が娘を育て嫁がせる思いでいることに由来しています
「青年部会の1年目の取り組みで健康な種子を確保できました。これからは『しゅんぎく娘』をもっと消費者にPRしていきたいですね」と力強く語る吉川さん。
春菊は代表的な緑黄色野菜の一つで、カルシウムが多く、鉄やカロチン、ビタミンCも多く含まれています。漢方においては「食べる風邪薬」とも言われていて、のぼせを鎮めて回復力や抵抗力を高めてくれる冬にぴったりの栄養食材。お鍋の定番としてだけでなく、サラダや炒め物など、幅広く料理に取り入れてみませんか?