産地レポート

守山市の木浜漁港で、朝獲れたニゴロブナを手にする芝原さんご夫妻

産地レポート
ニゴロブナ

ニゴロブナ

~訪ねた人:「守山漁業協同組合」芝原さん~

卵を持つ春が漁の最盛期。
琵琶湖名物鮒ずしも作っています。

守山市の木浜漁港で、朝獲れたニゴロブナを手にする芝原さんご夫妻。

メスはオスの10倍の値段

滋賀県で最も有名な珍味といえば、「鮒ずし」でしょう。鮒ずしは塩漬けしたフナをご飯に漬け込んで、乳酸発酵させたもの。現在の寿司の原型ともいわれる「馴れずし」の一種です。
この鮒ずしに使われるフナが、琵琶湖の固有種であるニゴロブナ。琵琶湖には他にギンブナとゲンゴロウブナもおり、これらでも鮒ずしを作ることはできますが、やはりニゴロブナで作ったものが一番おいしく、特に卵を持った3月~4月のメスが珍重されます。

「メスはオスの10倍の値段なんだよ」
木浜漁港でそう教えてくれたのは、ニゴロブナ漁から帰ったばかりの芝原さん。トロ箱の中には似たようなフナが数種類。どれがどれだかわからないんですが...。

仕方ないなあ、と芝原さんは目の前のフナを指さしながら、「下あごがはって大きいやろ。これがニゴロブナ。で、メスはお腹がふくれとって、指で押すと卵が出る」。
「守山あたりでは、ニゴロブナはイオと呼んでいるんですよ。さらにメスのニゴロブナは"○(マル)"、オスは"ガリタ"といって区別しています」と隣で奥さまの説明。メスの"マル"は値段の高さから呼び名の理由はわかるけれど、オスの"ガリタ"の由来は不明とのこと。ちなみにニゴロブナに関しては、性別や大きさにより各地域独特の呼び名があるのだとか。

「ニゴロブナで作った鮒ずしは、他のフナに比べて骨が軟らかいのが特徴やな。あまり大きすぎるよりは、250g~300gくらいのもんが喜ばれる」

水揚げされたばかりのニゴロブナ 浜漁港から北を望んだ風景 (左)水揚げされたばかりのニゴロブナ。
(右)木浜漁港から北を望んだ風景。奥に琵琶湖大橋が見える。

ニゴロブナは、主に内湖や入り江のヨシ帯で4~6月頃に産卵。稚魚はヨシ帯で大きくなり、その後、徐々に沖合へ移動。冬場は琵琶湖の深い所に分布し、生後2~3年で30cmくらいにまで成長。刺網漁などにかかります。

芝原さんの場合、朝の7時頃に港を出発。沖島手前の水深約25mくらいのところに仕掛けておいた網を引き揚げるといいます。他の場所に仕掛けてもいいのですが、沖(ちゅう)びき網など、他の漁師さんの邪魔になるため、刺網の場所はあまり変えないようにしているのだそう。

ニゴロブナ漁に使う刺網 「これがニゴロブナ漁に使う刺網だよ」と芝原さん。

ニゴロブナの漁獲量は、統計記録が残る昭和の終わりには200t近くありましたが、年々減少し、平成9年には18tにまで低下。最近では40tくらいまで回復していますが、最盛期にはとても及びません。芝原さんも、今日の漁獲量はわずか10kg(メス)程度。「フナがあんまり獲れんし、天然もんで作ったのが欲しいという人もいるので」と、数年前から自宅で始めたのが鮒ずし作り。
せっかくなので、見せていただくことにしました。

鮒ずしは下ごしらえが大事

芝原さんのご自宅は木浜漁港のすぐ近く。自宅に隣接して作業小屋があり、そこが鮒ずし作り&網の手入れの場所。中にはニゴロブナを漬けこんだ樽が並んでいました。

では、鮒ずし作りの最初の工程"塩漬け"の実演を。
最初は、下ごしらえ。フナのウロコをしっかり取り、内蔵や浮き袋をエラから引出します。この時、取り残しがあると上手に漬からないし、味も悪くなるから丁寧に取り除くのがポイント。

ニゴロブナのウロコ 浮き袋や内臓をエラから引き出す(左)ウロコをしっかり取り除く。
(右)浮き袋や内臓をエラから引き出す。

次に、全身にたっぷり塩をまぶし、樽に入れ、上から重しをのせ、たっぷりの塩で漬けこみます。

そして、3か月程度漬け込んだ夏の土用の頃に一旦取り出し、今度はご飯に漬けこみ、本漬けにします。

ニゴロブナに塩をまぶす 塩づけのニゴロブナ (左)ニゴロブナに塩をたっぷりまぶす。
(右)樽の中に塩づけのニゴロブナを置いておく。

重しをのせ、漬ける 重しをのせ、夏の土用の頃に取り出し、
ご飯で本漬けをする。

鮒ずしは、地域により麹や山椒を入れたり粕漬けにする地域もありますが、芝原さんのところは、シンプルにご飯だけ。
「昔は粕漬けも試したけれど、やっぱりご飯だけで漬けるのが一番おいしいと思いますよ。ご飯は近江米がいいわね」と奥さま。

夏の土用の頃に漬けこまれた鮒ずしは、早ければその年の年末頃に食べることができます。

通の味

鮒ずし作りは、手間と時間をかけて、じっくりと旨みを引き出していく作業。その乳酸発酵から生まれるチーズのような芳醇な香りと濃厚な味わいは、まさに"通の味"

一年前に漬けた鮒ずし ニゴロブナの鮒ずし (左)一年前に漬けた鮒ずし。
ご飯が乳酸発酵で溶け、米粒がなくなっている。
(右)ニゴロブナの鮒ずしは骨も柔らかく、卵と身とのバランスがいい。頭も食べられる。

近年、この鮒ずし作りの教室が県内各地で開かれ、人気を博しています。自分で作った鮒ずしは、また格別の味で、自分ならではの工夫を凝らすという楽しみもあります。もし機会があれば、ぜひ参加してみてください。きっと、あなたも鮒ずし作りの奥深さの虜になってしまうことでしょう。

(取材日;2012年3月15日)

■ニゴロブナに関するお問い合わせ:滋賀県漁業協同組合連合会
(電話:077-524-2418)