産地レポート

奥さまと一緒に、丹誠こめたいちごを手にする福永さん

産地レポート
いちご

いちご

~訪ねた人:彦根市のいちご栽培農家・福永さん~

いちごを栽培して半世紀。
毎朝ハウスに来て、生育を見るのが喜びです。

奥さまと一緒に、丹誠こめたいちごを手にする福永さん。

栽培歴50年の大ベテラン

誰もが大好きな甘く真っ赤ないちご。口に入れるとジューシーな甘さが広がり、幸せな気持ちになります。

滋賀県彦根市の福永さんは、いちご栽培歴50年という大ベテラン。77歳の今も奥さまと一緒に「よりおいしい」いちご作りのために研究を重ね、出荷時期になると、「福永さんのいちごでなければ」と、近隣から多くの注文が舞い込みます。

ハウスいちごの収穫時期は11月から6月まで。おだやかな冬の日差しに包まれたハウス内には、新鮮な緑の葉の下、真っ赤に色づいたいちごがズラリと並んでいました。

「今朝、収穫したばかりやから、食べ頃のいちごはもう残ってないよ」福永さんはそういいますが、どれもこれもツヤツヤ輝き、おいしそう!しかも驚くのは、普通の大きさの2~3倍はありそうな実の大きさと、円錐形に整った形の美しさ! 「いちごは、大きいのがおいしいね、やっぱり」と福永さん。

完熟した摘みたていちご 真っ赤に完熟した摘みたていちご。洗わずそのまま食べられる。

滋賀県独自の「少量土壌培地耕」

もう一つ驚いたのは、いちごが地面ではなく腰の高さに上げたプランターに実っていること。「少量土壌培地耕」という滋賀県が開発した独自のもので、開発には福永さんも大きくかかわっていたそうです。

少量土壌培地耕で栽培されるいちご いちごが触れる部分はネットを張り、傷付かないよう保護 (左)「少量土壌培地耕」で栽培されるいちご。腰をかがめなくていいので、作業がラク。
(右)いちごが触れる部分はネットを張り、傷付かないよう保護している。

「私がいちご栽培を始めたのは昭和37年頃、露地で幸玉(こうぎょく)いちごを栽培したのが始まりです。粒も小さくて硬かったなぁ」と、当時を懐かしむ福永さん。昭和43年にはハウス栽培に着手。当初は栽培方法がわからず、手さぐり状態。蜂を飛ばして受粉させることも知らず「なんで実がつかへんのや!」とあわてたこともあったとか。

昭和63年には水耕栽培に着手。栽培床を腰高にて、かがまずに作業ができるようにしました。実はこれ、「腰痛から解放されたかった」福永さんのアイデアだったのだとか。

水耕栽培には、最適な栄養分をダイレクトに植物に与えられる、という長所の半面、栄養バランスを崩すとすぐにいちごに影響が出るという問題点がありました。それを解決するべく、農業試験場から「土を入れたらいいのでは」とすすめられられたのがいちごの少量土壌培地耕誕生のきっかけだったのだそう。

「土があることで養分の効きがゆるやかになる。養分のバランスが崩れても土がカバーしてくれるから栽培しやすいんです」

その栽培のしやすさ、作業性の良さから、滋賀県のいちご栽培ではほとんどが「少量土壌培地耕」です。

おいしさへの探求心と愛情

現在、福永さんが栽培しているいちごは「章姫(あきひめ)」と「紅(べに)ほっぺ」の2種類。章姫は酸味が少なく果肉がやわらかでジューシー。紅ほっぺは、硬めで少し酸味があり、味が濃いのが特徴。試食させていただいたのですが、ともにその糖度の高さとみずみずしさに感嘆!

福永さんいわく、いちごの旨さには炭酸ガスが関係しているのだとか。

「ハウス内の炭酸ガスが多いといちごが太り、ツヤが出てきます。自然のままでは不足するので、朝にハウス内の炭酸ガスの濃度を上げてます」

温度管理も大切で、1日に何度もハウス内の換気などをして調整。

「ハウスに入ったら体感温度ですぐに、温度をどのくらい上げるべきか下げるべきかわかります。いちごはとてもデリケートな果物。葉っぱが立って元気でないと味がのらないんです。だから、こまめに面倒を見てやらないといけない」

出来具合を入念にチェック 健康でおいしいいちご (左)いちごの出来具合を入念にチェック。
(右)まるまる太った健康でおいしいいちご

みずみずしいいちご 昼過ぎでも葉っぱが水滴を含み、みずみずしい。元気な証拠。

他にも、いちごの黒ずみを防ぐため被覆の色を白にする、いちごが傷つかないよう被覆の上にネットをかさねる、甘味を増す甘草(薬草)を散布し、甘草たい肥も施用する、活性水を与えるなど、いちごに良いと思ったことは何でも迷わず施行。極力、農薬や化学肥料に頼らない栽培を心がけています。
また、育苗中に発生する「いちご炭疸病」を予防するポッドによる底面給水育苗システムも、福永さんがアイデアを出し、メーカーとともに開発されたもの。これにより炭疸病の発生が抑えられたといいます。

「いつも失敗しながら新しいことに挑戦してきた」と笑う福永さん。その原動力は、「おいしさ」への探求心といちごへの愛情。
「いちごはものを言いません。そのぶん自分がやったことが正直に、素直に出ます。毎朝、ハウスに来て、いちごの生育を見るのが喜びです」

奥さまと二人で、仲良く収穫 奥さまと二人で、仲良く収穫。

直売所へ出荷すると、買ってくれた人が「おいしい」といってくれる。それがうれしいという福永さん。
もう一つ、最近うれしいことができました。それは、お孫さんが跡を継いでくれるといってくれ、いちご栽培を手伝ってくれるようになったこと。福永さんのいちごを毎年楽しみに待っている人にとってもうれしい知らせです。

出荷すると、買ってくれた人が「おいしい」といってくれる 福永さんは、JA東びわこに市場出荷するほか、近くの農産物直売所「美浜館」にも出荷される。

(取材日:2012年2月23日)

■滋賀県産のいちごが買える場所:量販店、直売所、道の駅など