日野菜 ~訪ねた人 蒲生郡 日野菜愛承会 寺澤清穂さん~
500年の伝統野菜・日野菜(ひのな)
室町時代からの味を守り伝える
滋賀県には、古くから栽培されてきた「伝統野菜」が数多くありますが、その代表ともいえるのが日野菜ではないでしょうか。細い大根のような見た目と、赤と白のコントラストが特徴的で、500年以上の歴史を持つかぶの仲間です。
そのルーツは室町時代。蒲生家14代当主・貞秀が日野町鎌掛(かいがけ)地区にある観音堂に参詣した際、見慣れない野菜を発見して持ち帰り、漬物にしてみたことが始まりだといわれています。江戸時代には、近江商人などの手によって全国へと広がっていきましたが、当時の日野菜は太く曲がった見た目をしていました。今のほっそりとしてまっすぐな形には、明治時代以降の品種改良によって少しずつ変わっていったといいます。
紅白のコントラストが美しい日野菜は、適度な苦みと辛み、そしてほのかな甘みが特徴。栽培には日野町の風土、水はけがよく、保水力があり肥沃な土壌である、古琵琶湖層といわれる砂質土壌が最も適しているといわれています。
伝統野菜は種が命
「日野菜はかぶらの一種なので、救荒作物なんです。ほぼ年間を通じて収穫できる上に、播種から1カ月もすれば「間引き菜」などで食べられ、成長も早い。不揃いなのも伝統野菜の特徴です。この遺伝子を守っていかなければなりません。」と話すのは、この道50余年の寺澤清穂さん。現在は14aの圃場で日野菜を栽培しています。加えてこの圃場では、伝統野菜用の種子の確保と、遺伝子を保護するための研究にも取り組んでいます。一方で、昔から愛食している人からは「最近の日野菜は大きくなりすぎ!味も淡泊。」と言われることも。太さは100円玉程度、根の部分はなで肩でまっすぐ、もう少しスマートな形にして、伝統野菜としての遺伝的多様性を損なうことなく、昔ながらの形質を持った日野菜を継承していくことも大切です。
圃場近くのビニールハウスでは、伝統野菜の形質を継承するための研究もしています。
寺澤さんが主宰する「日野菜愛承会」では、日野菜の歴史と魅力を知ってもらおうと、小学校での授業や調理実習などを開催しています。昨年は授業で3校、調理実習で2校に赴き子どもたちと交流したのだとか。その他、2022年に日野菜が地理的表示(GI)保護制度に登録されたことがきっかけでメディアの取材も増え、寺澤さんの所に直接問い合わせが来ることも多くなったといいます。
「伝統野菜としての日野菜の魅力が広がることは大変ありがたいですし、日野菜の種の生産から栽培、収穫、さらに漬物などに加工するといった、一連の活動を続けながら、次の500年に向けて存続していければと思っています。」
開設から今年で6年目を迎える「JAグリーン近江 日野農産物加工施設」では、日野菜の振興を目的に、1日約500kgもの日野菜を加工しています。
冬限定の妙味を味わって
根も葉も余すところなく食べられて、煮ても蒸しても揚げてもおいしい日野菜。最近では、おせち料理やちらし寿司、フランス料理に使われるなど、料理の幅もさらに広がってきています。しかし、一番おすすめの食べ方を寺澤さんに訊いてみると「漬物ですね」と即答。
「塩漬け、甘酢漬け、ぬか漬けなど、漬物だけでもいろんな種類があります。ご家庭でも、最短2時間ほどで簡単に漬物を作ることができますよ。日野菜の漬物は非常に奥が深いので、その魅力にもっと注目してほしいですね。」と力を込めます。
日野菜はJA日野東支店やJAグリーン近江「きてか~な」、平和堂などで購入できます。ふりかけやキムチ、「まぜて〜菜」などなど、漬物以外にもたくさんの新名物が登場しているので、見かけた際はぜひお試しを!
「JAグリーン近江 日野農産物加工施設」では、一番人気の「切漬」を中心に、年間7~8万パックもの日野菜の加工品を製造しています。
(取材日:2023年12月11日)