産地レポート

トップページ産地レポートいちご「みおしずく」 滋賀県農業技術振興センター

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いちご「みおしずく」 滋賀県農業技術振興センター

しずくのように美しい、滋賀県初のオリジナルいちご

滋賀県初のオリジナルいちご みおしずく

開発秘話~1日200個のいちごをひたすら食べ比べ~

清らかなしずくのように整った形、宝石のように輝くスカーレット色。すがすがしい花の香りと、甘味・酸味のバランスが抜群のいちご。2023年冬に本格的に生産・販売を開始する県初のオリジナルいちご品種「みおしずく」です。名前は公募から2カ月間で、7,600を超える応募が集まり、その中から選ばれたそうですが、この新生いちごにふさわしく、愛らしく美しい名前です。

「みおしずく」の収穫期は12月~4月頃まで。2022年春に取材で伺った滋賀県農業技術振興センターの試験栽培ハウスの中では「みおしずく」が実っていました。「きれいな形でしょ。この紡錘形が『みおしずく』の特徴なんです」。まるで我が子の成長を喜ぶように話すのは、東近江で農業指導を行っている野口英明さん。「みおしずく」の生みの親の一人です。

農業技術振興センタ一の花田さん野口さん左:農業技術振興センタ一の花田惇史さん。右:東近江農業農村振興事務所の野口英明さん。

滋賀県がいちご品種の開発を始めたのは2016年のこと。ノウハウのない中で、携わる研究員は数名だけという状況に「本当に育種できるのかと心配でした」と野口さんは当時を振り返ります。品種開発は、作りたいいちごの特徴を定め、それに合う母親と父親の品種を決めることから始めます。滋賀県のいちご栽培は、ハウスの中に腰の高さほどの台を設置し、そこに栽培場所をつくって育てる独自の栽培様式が主流です。さらには、雪の積もる地域であっても、ボイラーや電照機などで温度や日照時間をコントロールしないで栽培します。こうした条件の下、父親としては、県内で多く栽培され収量も安定している「章姫(あきひめ)」を選定。そして、章姫の弱点をカバーすべく、果実がやや硬く傷みにくい、甘みと酸味のバランスが良いという特徴を持つ「かおり野」を母親に定めました。最初に、父親、母親それぞれの雄しべと雌しべを交配させ、新品種の株を作ります。次に、新品種の株に実ったいちごから、味や香り、形や扱いやすさなど、様々な点において優良な株を選抜します。その株を増やしてさらに選抜を重ねて...という作業を4年かけて繰り返し、2019年にようやく1系統に絞り込みました。これが新品種「滋賀SB2号」です。

イチゴ新品種有望系統の選抜※滋賀県農業技術振興センター提供

一番苦労した点を尋ねてみると「1,600株を300株に絞る作業でしたね」と野口さん。「糖度や硬さは機器で計測したりするのですが、人間の感覚頼りの部分もありまして。ピークの時には1日100〜200個のいちごをひたすら食べ比べました。そんな中で、客観的に優良な株を選べているだろうかと、不安になったりもしました。300株から『滋賀SB2号』1つに絞り込むまでの作業も大変だったはず、これらの作業に取り組んでいただいた職員さんには感謝の念が絶えません」。「滋賀SB2号」に絞り込んでからさらに2年をかけて栽培方法の検証等を重ね、2023年度に本格的に生産を開始する目途が立ちました。デビューに向けて2021年度にその姿が公開され、公募により名前が決定。滋賀県オリジナルいちご「みおしずく」が誕生しました。

滋賀県のブランドいちご戦略、正念場はこれから

「みおしずく」誕生までのお話を伺っているうちに、すっかり気温の上がったハウスでは、温度調節のため、空気を循環させる換気扇やミストシャワーが稼働し始めていました。「現在はこのハウスで、栽培環境、例えば温度や栄養分の濃度などを変えながら、収量や食味の向上に向けた研究を続けています。よりよい栽培ノウハウを提供できるかどうかが、農家さんが『みおしずく』の栽培を手がけてくれるかに関わってきます」。そう話すのは、農業技術振興センターで主任技師を務める花田惇史(あつし)さん。現在、「みおしずく」の栽培ノウハウを集積しマニュアル化する作業や、農家への情報発信などを統括する現場責任者の一人です。

実った「みおしずく」の状態を確認する花田さん実った「みおしずく」の状態を確認する花田さん。

既存の品種で安定した収量を得ている農家さんにとって、新品種を導入するのは、期待と同時にリスクも大きく、どのくらいの農家さんが「みおしずく」の栽培にチャレンジしてくれるかはまだ未知数です。「『みおしずく』は父親の『章姫』と同じくらい収量が上がるうえ、『章姫』に比べて、果実が傷つきにくい、糖度が高い、果実がつき始めるのが早い(出荷時期が早い)、『章姫』と異なる色・味・香り・食感を持つ、という特徴があります」と花田さん。新品種の開発までが前半戦ならば、より多くの農家さんに栽培してもらい、より多くの消費者に評価してもらい、ブランドとして育てていくのが後半戦。滋賀県のいちごブランド化戦略は、これから正念場を迎えます。

ハウスで摘んだばかりの「みおしずく」ハウスで摘んだばかりの「みおしずく」。したたるほど果汁たっぷりです。

写真撮影後「みおしずく」を手にとって口元へ近づけると、すでにハウスいっぱいに広がっていたフルーティーな香りが、ぐんと強まります。陽の光にきらきらと輝く果実を口に含むと、サクッとした食感の後に、ジューシーな果汁がほとばしり、さっぱりとした甘みが広がりました。2023年度の本格デビューが今から待ち遠しく、楽しみです。

(取材日:2022年5月17日)