リンドウ日常づかいのすすめ
リンドウに合った保水力のある土地
甲賀市甲南町、町の中心を流れる杣川(そまがわ)流域の開けた土地でリンドウを栽培している杉本昌夫さん。かつては水田だったという約3アールの圃(ほ)場は粘土質で保水力が強く、乾燥に弱いリンドウづくりには適した場所です。以前、杉本さんはこの場所で小菊をつくっていましたが、小菊にとっては強すぎる保水力のため根腐りが続き断念。そこで、県の農産普及課の提案でリンドウを栽培し始めたところ、安定した栽培ができて規模を拡大していきました。現在は別の圃場で栽培を続けている小菊と、リンドウを中心に営農しています。
「この辺りは夏でも比較的朝や夜は涼しいです。リンドウは乾燥のほか暑さにも弱いため、その点でも栽培に向いていましたね」と杉本さんは話します。
リンドウと言うと"秋の花"というイメージを持つ方が多いかもしれませんが、品種によっては7月から収穫できるものもあります。杉本さんがリンドウづくりを始めたときに導入したのが、夏に青紫色の花を咲かせる「スカイブルーしなの早生」「しなの2号」という品種。その2年後には、9月〜10月に白やピンクの花を咲かせる4品種を導入しました。収穫量と時期、アレンジ性等バランスを考慮した構成になっています。年間の収穫量は、メインとなる青紫系が約4,000本、白系やピンク系が合わせて約1,000本になります。
段になって鐘形の花を咲かせるリンドウ。一番上の段が色づきはじめるタイミングが収穫適期です。
小菊からリンドウ中心にシフト
リンドウは、定植1年目は株を育てる期間となり、収穫できるのは2年目以降になります。2年目以降は、養成した株から伸びてきた茎を収穫します。株はそのまま養生することで、翌年再び新たな茎が伸びてきます。こうして毎年株を育て切り花本数を増やしていきますが、5年目を過ぎると株が衰えて収量が減っていきます。リンドウを作り始めて5年が過ぎ、最初に植えた2品種の世代交代も近づいています。杉本さんは今年、今後に備えて青紫色の4品種の定植を行いました。
「リンドウと違い、小菊づくりには毎年挿し芽や畝づくりが必要になり体力的に負担もかかります。効率的に農業をするために、今後は少しずつ小菊の規模を小さくしながらリンドウ中心の栽培にシフトして、出荷量の安定化を目指していきます」。
1年目のリンドウは50cm〜60cmの高さまでしか育ちませんが、2年目には1.5mほどの高さまで急激に伸びていきます。
花と葉がきれいなリンドウは、パッと見でお客さんの感性に訴えかけます。
仏花やフラワーアレンジメントのアクセントに
杉本さんは基本的にJAを通してリンドウを出荷しています。主には水口町の花野果市(はなやかいち)に、そのほか、市場経由で県内のスーパーにも並びます。シンプルにリンドウだけで楽しむ以外にも、他の花と組み合わせるのがおすすめだそうです。
「リンドウと小菊を併せたアレンジセットを売ると、見栄えがして評判がいいんですよ。お盆の時期にはたくさん花が並びますので、他の生産者の方と違うものを提案していきたいですし、これができるのがリンドウと小菊の両方をつくっている強みですね」と笑顔の杉本さん。淡い色の菊の中に紫色のリンドウが目立って引き締まった花束になります。
逆に、お盆を過ぎた後に並ぶホワイト・ピンク系のリンドウも、フラワーアレンジメントで鐘形の花がちょっとしたアクセントになり、リンドウの花の幅広い需要を感じさせます。
仏花に生花に、リンドウを使ってアレンジしてみるのはいかがでしょうか。
9月にはピンクや白のリンドウがお店に並びます。
圃場は道沿いにあり、通っていく方が花を見てくれることがやりがいの1つになっています。
杉本さんは甲賀でリンドウを作るトップランナーの1人として普及活動にも取り組んでいます。
(取材日:2021年7月20日)