華やかな菊で花の楽しさを伝える
複合農業の強みを菊づくりに活かす
甲賀市水口町で「山﨑農園」を経営する山﨑容子さん。米や野菜との複合農業で小菊をつくっています。
「前からハボタンはやっていたのですが、娘が就農した10年ほど前に、甲賀で小菊部会ができるということで始めたんです」。そんな山﨑さんは、県から実証を依頼され、滋賀県で初めて小菊づくりに露地電照を取り入れた方でもあります。米の育苗用ハウスに通していた電源ルートを使って日照をコントロールし、夏咲きの菊をお盆に咲くよう開花を遅らせました。仏花として墓参りに使われる菊はお盆を過ぎると大幅に値崩れするため、"売るための投資"を重視し、県の園芸振興大会でもその大切さを伝えています。
また、県で最も早く花の機械定植を始めました。野菜の定植機を改造して、花の狭い株間に対応したものです。
「メーカーさんに『花でも使えるように改造してきたら買うわ』と言ったら改造してくださったので購入しました。他のメーカーさんも見に来ました」。機械を使うことで定植にかかる時間が大幅に短縮。その他にも、畝間を広くとることで、野菜の消毒に使うビーグルを菊に転用するなど、米づくりや野菜づくりで大型機械を持つことの強みを花の栽培にも活かしている山﨑さん。小菊栽培における県下初の取り組みを次々と成功させています。
所有するハウスのうちの1棟では、少量土壌培地耕で小菊を栽培しています
10年で甲賀に小菊栽培を広げた
山﨑さんは、ハウスで菊の親株を増やして、甲賀地域での小菊栽培の普及にも力を注いでいます。
「新しく始める人には、ここに来てもらって根が張った苗を持って帰ってもらってます。1年目から挿し芽で失敗してモチベーションが下がってしまうのは避けたいですから」。きっかけは、営農組合の「農業をする女性を増やすにはどうしたらいいか」という問いでした。お墓や仏壇に供えるために使用できることをアピールして市内の集落営農法人に小菊を勧めてみたところ、集落の女性が取り組んで活気付いていきました。
「お母さんが始めて息子が手伝うという形になると思ったんです。女性の農業者が増えてくれれば、営農組合も明るくなりますしね。みなさん熱心にやってくださいます」。
先輩として苗を渡す山﨑さんの最初のフォローは大きく、次第に小菊をつくる女性が増え、菊部会で女性だけのグループができるほどになりました。メンバーの数も発足当時の2倍になり、滋賀県花き品評会でも甲賀地域の生産者が多く入賞するようになりました。精力的なその活動は、甲賀の菊づくりに大きな変化をもたらしました。
「軸が太くて、花の高さが上で綺麗に揃っているものがいい」と菊選びのポイントを教えてくれました
子どもたちに花を楽しんでもらいたい
山﨑さんはつくった小菊を自身で花束にまとめて出荷。主にJA甲賀の花野果市(はなやかいち)で購入することができ、年末には1日に600パック売れることもあります。ハボタンを中心にした寄せ植えのポットの形でも販売されています。
仏花のイメージが強い菊ですが、山﨑さんは洋風の菊も多く扱っており、品評会でその華やかな見た目に他の生産者から驚かれることもしばしば。現在の栽培品種は約45品種にのぼります。洋風の菊は、寄せ植え教室でも若者を中心に人気です。コロナ禍前に小学校で開催していた親子参加のアレンジメント教室では、子どもが花を選んで鉢に挿す姿が保護者からも好評でした。 「背の高い花を並べる子、丸く並べる子、いろいろな子がいて、花を選んで挿すだけでも個性が出るんです。作った鉢はそのまま持って帰って家で飾れますので、こういう経験を通して子どもたちに花に興味を持ってもらいたいですね」。仏花のイメージを変えるような菊づくりで花の楽しさを伝えていく山﨑さん。
「気持ちは若々しく、これからも頑張っていきます」。
「菊」とひと口に言っても、こんなにも色の種類があります
山﨑さん自作のフラワーアレンジメント。自分の花でつくれることもモチベーションに
(取材日:2020年12月9日)