琵琶湖八珍のおいしい現場。
コアユ
アユ科
旬:冬・春・夏(12〜7月)
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にぎりは甘くてほろ苦く、スッと消える。
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琵琶湖のコアユは、春に成長の良いものが河川へ遡上するが、大部分は琵琶湖で成長し、小型のまま成魚となる。海でも生活するアユに比べて骨もやわらないため、まるごと食べられるのが魅力だ。冬季に獲れる稚魚は、ウロコが生えそろわず透き通った体をしているため氷魚(ひうお)と呼ばれる。冬の僅かな時期にしか獲れない氷魚をさっと塩ゆでにした釜揚げは琵琶湖でしか食べられない芸術品だが、夏は天ぷらや塩焼きなど別の楽しみがある。
長浜で[京極寿司]を営む「若大将」の眞杉国史(ますぎ・くにちか)さんは、北海道や東京の有名店での修業を経て、実家の店のカウンターに立つ。琵琶湖の幸と江戸前の技術をどう融合させるかに頭をひねった。その到達点の一つがコアユのにぎりだ。
「江戸前のシンコ(コハダの幼魚)美味いでしょ。あれコアユでもできないかと思いまして。小さな魚だけど出刃でスッスッと捌いて、にぎるんです」
よそが真似できない技術で、遠方からも客が訪れる。うっすらと桃色づいた身とシャリが口の中で溶け合って、そしてはかなく消える。この余韻こそ「琵琶湖の夏」そのもの。スキッとした日本酒でもスパークリングワインでも、きっとお気に召すはず。5月から8月中旬までのお楽しみだ。