産地レポート

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「おいしいものを食べてほしい」が原動力

名人が丹精する幻の「金まくわうり」

まくわうり畑

食べごろになった黄色い実

咲いたばかりの黄色い可憐な花

真夏の突き抜けた青空のもと、濃い緑をした箱館山が近くに感じられます。ここは滋賀県高島市今津町岸脇。太陽の光を浴びて広がる25アール(約2,500平方メートル)のまくわうり畑に、一辺3メートルほどの長い畝が立てられ、食べごろになった黄色い実や、咲いたばかりの黄色い可憐な花が、大きな緑の葉の間から顔をのぞかせています。花が咲いてから収穫までは約1カ月。7月から収穫が始まり、収穫はお盆のころまでに終わります。

滋賀県のこの地方などでは、古くから「まくわうり」が自家用に栽培され、子どものおやつや食後のデザートとして食べられてきました。「黄まくわうり」とも「金まくわうり」ともいわれますが、品種名は「金太郎」。濃い黄色の皮と、ジューシーでさくっとした、控えめな甘みのある果肉が特徴です。中でも「幻の金まくわうり」を作ると評判なのが、畑の主、河原田博(ひろむ)さん(74)。まくわうりの他に、なす、キャベツ、冬の赤かぶ、近江米も作る専業農家ですが、まくわうりづくりにかけては、この道45年を超える"名人"です。

味の決め手は雨の量と降り方

まくわうりの収穫作業

おいしいまくわうりを作るポイントは?「そら雨や。畑の排水やなぁ」と即答。5月に種をまき、カボチャに接ぎ木をして露地で育てますが、味を決めるのが雨の量と降り方です。「雨は少なくても大丈夫やけど、多いのは困る。特に大雨とかんかん照りが交互に続くのが一番良くない」。畑に雨がたまると、まくわうりは中から萎れてきます。

今年大雨をもたらした台風11号の後も、畑にたまった水を、スコップで掘って周囲の水路へ流す作業に追われました。70歳を過ぎた今でも「そういう作業は苦にならへん」と笑顔を見せます。

常に天候を気にする毎日ですが、作業していてふと北西の箱館山を見上げ、「降ってきよるなー」と思ったら、まず間違いなく雨になるそう。

収穫カゴから長さ10センチほどのまくわうりを手に取って、「これは500グラムぐらい」。ピタッと当てるのはさすが。出荷量は年に約750ケース。収穫したてのまくわうりにはうっすらと産毛が生えていて、一つひとつ丁寧に水洗いしてから出荷します。

藪入りのお土産を喜んでもらえたのがうれしくて

細やかな世話の一つひとつが、「幻の味」を生み出す

まくわうり栽培では、除草剤を使うことができません。雑草抑えと、ウドンコ病などの病気の原因となりやすい雨の泥はね除けのために、畝の上にはワラが敷き詰められています。ハクビシンやキツネ、カラスに実を食べられないよう、畑には生き物の動きをキャッチして鳴るセンサー式サイレンの仕掛けも。

こういった作業や水への目配り、肥料の量やタイミングなど、細やかな世話の一つひとつが、「幻の味」を生み出すのでしょう。

河原田さんがまくわうりを作り始めたのは46年前。中学を卒業後京都で染織を勉強していましたが、28歳の時に兄が亡くなったため、戻ってきました。「修業時代、藪入りで帰省する度にまくわうりをお土産に持って行くと、珍しい、おいしいと皆さんが喜んでくれました。それで、作ってみようと思ったんです」

生も漬物もおいしい 家内が助けてくれるおかげです

生も漬物もおいしい 家内が助けてくれるおかげです

いまでは京都や滋賀の市場や店で待つ人も多い"名人"ブランドの金まくわうり。「子どものころからずっと食べてきたし、今も毎日食べますよ。そのままでもおいしいし、家内が漬けた漬物も好きです。うん、おいしいなぁ」と河原田さん。同じ敷地に住む高校2年と中学3年の2人の孫息子も、河原田さんのまくわうりが大好き。「そのままで食べたいから、何かかけたりしないでっていつも言われるんですよ」と妻のカツ枝さん(72)。

河原田さんのまくわうりづくりの原動力は、「お客さんにおいしいものを食べてもらいたい」という思い。「自然が相手やから、年によって生長の早さも出来も違うけど、お盆直前にちょうど食べごろのがたくさん収穫できると、そらぁ一番うれしいです」と顔をほころばせます。

「仕事があるのはええこと。おいしいまくわうりが作れるのは、家内が助けてくれるおかげ。母の介護を黙ってしてくれたことにも感謝してるんですよ」。直接言いました?「いや、それは......」。助けたり、助けられたり、言葉はなくても一緒にいる相手を思いやる毎日。実はそんな2人が育てていることが、"名人"の味につながっているのかもしれません。