産地レポート

和邇漁港で、水揚げされたばかりの氷魚を持つ礒田組合長

産地レポート
氷魚(ひうお)

氷魚(ひうお)

~訪ねた人:「志賀町漁業協同組合」組合長 礒田さん~

氷魚は、透き通る体をした鮎の稚魚。
みんなが待ち望む、冬の琵琶湖だけの味です。

和邇漁港で、水揚げされたばかりの氷魚を持つ礒田組合長。

冬の琵琶湖の特産品

琵琶湖には、冬だけにとれる特産品があります。それが、氷魚(ひうお)。鮎の稚魚で、大きさは3~6cmくらい。体が氷のように透き通っているため、「氷魚」と呼ばれています。

氷魚は、釜揚げにするのが一般的。「しらす」のように熱を加えると白くなり、身はしっとりしていて、舌触りは滑らか。そこはかとなく鮎とわかる繊細な味わいは、琵琶湖の冬の味覚として愛されています。釜揚げのほかにも、かき揚げや佃煮などでも食されています。

氷魚が主に水揚げされるのは、12月から3月頃まで。透き通っている氷魚は、やがてウロコができ、体型も変化し、5月頃には小鮎(コアユ)と呼ばれるようになります。

透き通っている氷魚 透き通る体をした氷魚。

早朝の和邇漁港では、料理店などの専門業者に交じり、近所の主婦数人が氷魚漁から帰る船を待ちわびていました。聞けば、自宅で釜揚げにするのだとか。湖近くに住む人だけの贅沢な楽しみです。
そこへ漁船が待望の帰港。甲板に設けられた水槽の中には透明な氷魚が元気に泳いでいます。すぐに漁港でハカリにかけられ、次から次へ、キロ単位でまたたくまに引き取られていきました。

和邇漁港 氷魚漁からの帰還船 (左)和邇漁港。後ろに見えるのは雪をかぶった比良山脈。
(右)氷魚漁からの帰還。

杭が連なった
ようなものがエリ 後ろにうっすら見える杭が連なった
ようなものがエリ。

「3月のいまの時期は例年通りの漁獲量ですが、今年の1月と2月は氷魚は不漁だったんですよ。天候が悪く、船の出る日数が少なかった。といっても、30年くらい前とは比べ物になりませんがね。あの頃は、それこそ船いっぱいにとれたもんです。」
そう話すのは、水揚げの様子を見ていた志賀町漁業協同組合の組合長、礒田さん。湖西にある同組合は組合員42名。和邇漁港と北小松漁港を根拠地とし、県下でも有数の氷魚出荷量を誇ります。

琵琶湖独特の漁法、エリ漁

「琵琶湖の漁には、季節や魚の種類によりさまざまな方法があるんですが、この時期の氷魚は主にエリ漁です」

エリとは琵琶湖の伝統的な漁法で、定置網の一種。湖岸沿いを車で走っていると、岸から沖合に向けて杭が並んでいるのが見られます。これを上空から見ると、矢印のような形をしています。これが、エリ。湖岸近くに来た魚を矢印の両側に張出した「ツボ」と呼ばれる部分に誘導し、ツボに仕掛けておいた網を引きあげて捕獲する漁法です。志賀町漁業協同組合では、丹出川(たんでがわ)から高島市の白鬚(しらひげ)浜あたりまでの湖岸22kmの間で15のエリがあるといいます。

「この時期の氷魚の習性は単純でね、夜に岸辺近くにむらがり、夜明けになると沖に出て行くんです。その時、障害物であるエリにぶつかり、誘導されて網(ツボ)の中へ入ります」

氷魚漁の船は、水槽のある本船1隻が小舟2隻を伴って朝の6時くらいに港を出発。エリのツボに着いたら底網を機械であげ、残りの網を小舟に乗った漁師さんが手で繰りながら引きあげていきます。

漁から帰ったばかりの漁師さんたち 氷魚をあげ、計量する 漁から帰ったばかりの漁師さんたち。水槽から氷魚をあげ、計量する。

氷魚は船上の水槽で生きたまま港に着く 志賀町漁業協同組合の斎藤さん (左)氷魚は船上の水槽の中で酸素を供給され、生きたまま港に着く。水槽の水は塩水。生きたまま運ぶのに不可欠なのだとか。
(右)志賀町漁業協同組合の斎藤さん。手にしているのは氷魚の選別器。0.5cm間隔で隙間があり、これで大きさを揃える。

「エリは深いところでは約20m以上あるからね、3人1組で引きあげます。昔に比べると機械があるからずいぶんラクになったけれど、それでも1回につき30~50分はかかるかな」

商店街の湖魚専門店で販売

エリに使う網はデリケート。長さ30m近くになるものもあり、引きあげるのも、引きあげてからの作業も大変。

エリ漁で使う網を手にする礒田さん エリ漁で使う網を手にする礒田さん。氷魚漁は網目が細かい。

「藻がからみついて、手入れに苦労します。琵琶湖が汚れてきているんでしょうねえ」と、礒田さんもため息。

「琵琶湖の漁も、琵琶湖の魚も好きで漁師をやっているので、琵琶湖が年々汚れ、在来の魚が減っていくのは悲しいことです。私ら漁師も、藻の掃除などをやっているのですが、なかなか追いつかない。氷魚も、本当においしいし、しかもこの時期の琵琶湖だけにしかとれない魚だから、もっとたくさん獲って、多くの人に食べてもらいたいんですが...。」

とはいえ、湖岸沿いの湖魚専門店などでは、冬の季節には氷魚の釜揚げや佃煮を手に入れることができます。皆さんもみかけたら、この時期の琵琶湖だけが生み出す新鮮な味をぜひ楽しんでください。
最後に、礒田さんから聞いた、あまり知られていない「ゆで氷魚(ひお)」の作り方を。塩分を効かせて固めにゆでた氷魚を陰干しで2日間干すのだそう。「ちりめんじゃこの味の濃いようなものになり、旨い」とのこと。また、生の氷魚をすき焼き風にして食べてもおいしいそうです。機会があれば、試してみてください。

(取材日:2012年2月28日)

■氷魚に関するお問い合わせ:滋賀県漁業協同組合連合会(電話077-524-2418)