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トップページ産地レポート伊吹大根(いぶきだいこん)

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米原市で伊吹大根を栽培している前澤さん

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伊吹大根(いぶきだいこん)

伊吹大根(いぶきだいこん)

~訪ねた人:米原市で伊吹大根を栽培している前澤さん~

伊吹山のふもとで江戸時代から名高い辛味大根。
名物のそばと一緒に食べると最高の味ですよ!

雪の中、山の畑で伊吹大根を手にする前澤さん。

伊吹そばの薬味として有名に

琵琶湖の北東にそびえる滋賀県の最高峰、伊吹山(標高約1377m)。『古事記』や『日本書記』にもその名が登場し、日本武尊(やまとたけるのみこと)伝説もある歴史的にも有名な山。そして、そのふもとで栽培されているのが、昔から知る人ぞ知る伝統野菜「伊吹大根」です。

伊吹大根は、長さは20cmくらい。お尻が丸い寸胴型で曲がった尻尾がついており、地元ではその形から「ねずみ大根」とも呼ばれています。この伊吹大根の最大の特徴は、辛味の強さです。

伊吹山周辺は昔からそばの産地としても有名で、伊吹大根は、そばの薬味として欠かせない辛味大根として珍重されてきました。相性の良さは江戸時代にはすでに知られていたようで、「伊吹そば天下にかくれなければ。からみ大根又此山を極上と定む」と『風俗文選』(1706年)に書き記されています。

伊吹大根は、主に伊吹山のふもとの大久保集落の人々の手により、守られ、栽培されています。その一人、前澤さんに伊吹大根の畑へ連れていってもらいました。

取材当日は、雪。畑まで続く急こう配の山道に10cmくらいの雪が積もり、四駆の車でないと上がれないほど!

「真冬には1m20~30cmほど雪が積もるときもあってねぇ。こんな山道は除雪車も入らないから、軽トラックで行けないときは、孫のソリを持って上がるんですよ。普通だったら家から車で2~3分なんだけど、歩きだと、行きに1時間、大根を掘るのに1時間、ソリに大根をのせて帰ってくるのに1時間かかります」と、前澤さん。これは厳しい!

ねずみの形に似た伊吹大根 ねずみの形に似た伊吹大根。

高地と山の土が辛さのヒミツ

その苦労を思いながらたどりついた前澤さんの畑は、山道と谷に挟まれた一角を切り開いて作られていました。畑の周囲はサルやシカなどの獣害から守るため、電気柵で囲まれています。このあたりで海抜300mほど。麓と比べると3℃くらい気温が低いといいます。

伊吹大根は、このように標高の高い所が生育に適した場所。昼と夜の温度差があり、普通の大根に比べてゆっくり生育することでキメが細かい、辛味の強い大根ができます。また、土壌も肥えた黒土ではなく、粘土質の山の土(赤土)がいいんだそう。平地で育てるとどうしても辛味が少なくなり、本来の風味にならないのだとか。とはいえ、水やりの大変さなど、高地ならではの苦労も当然ついてきます。

柵の扉をあけて中に入ると、真っ白な雪の下に伊吹大根が埋まっていました。前澤さんがスコップで雪をどけると、広げた葉の下に大根が顔をのぞかせます。

「伊吹大根は"けっからし大根"ともいうんだよ。ほらね」 そういいながら前澤さんが大根の首をけると、大根が土の中から飛び出てきました。足でけり飛ばしても折れることのない、緻密な肉質であることの証明です。
雪と土の中から掘り出されたばかりの伊吹大根は、丸々小太りで白い肌ははちきれんばかり。健康でとてもおいしそう! 
大根の茎の部分は赤紫で、胴体には細かなヒゲが生えています。
「このヒゲがあちこちバラバラな方向に生えているほうが辛い大根なんだよね」と前澤さんのプチ情報も。

伊吹大根を掘りだす前澤さん 葉と茎の部分は赤紫色を帯びている (左)スコップで伊吹大根を掘りだす前澤さん。
(右)伊吹大根の葉と茎の部分は赤紫色を帯びている。

ドレッシングなどの加工品も開発

雪の重みに耐えることで大根に甘味も出るのだそうですが、しかし雪の下から伊吹大根を掘りだす作業は本当に大変。収穫は11月から3月ぐらいまでですが、取材時の12月でも苦労なのに、雪が1m以上降り積もる真冬だったらどれだけ大変か、想像するだけでため息が。様子をうかがいに前澤さんのご主人が軽トラックで登場。奥さんを助けて大根を掘りだしてくださいました。仲のよいご夫婦の様子を拝見しながら、伊吹大根が、地元に育ち、その味を愛する人たちの手によって守られている伝統野菜であることをあらためて感じました。

最後に伊吹大根の食べ方をうかがいました。いちばんのおすすめは、やはりおろしで。大根を縦に4つに切り、皮と一緒にすりおろすのだそう(皮は薄いのでむく必要はなし!)。これは、伊吹大根はお尻のほうが辛味が強いので、茎からお尻までを一度にすることにより、辛味が均一になるためです。きめ細かく詰まっているため、「おでんや風呂吹き大根なども煮崩れせずとてもおいしい」と、これは前澤さんのご主人の意見。

取材陣も当日、地元のそば屋で伊吹大根の「おろしざるそば」を注文。たっぷりの大根おろしをそばにかけて食べれば、なるほど、絶品! ぴりりと小気味いい辛味が口いっぱいに広がり、しかも甘味もあって上品。

米原市伊吹の道の駅「伊吹の里 旬彩の森」では、伊吹大根はもちろん、伊吹大根のぬか漬けや切干大根、ドレッシング、ロールケーキなども販売しています。伊吹山方面へお出かけの際は、のぞいてみてください。

伊吹大根を用いた加工品 道の駅「伊吹の里 旬彩の森」では伊吹大根を用いた加工品も販売。

(取材日:2011年12月19日)

伊吹大根や関連商品が購入できる場所

道の駅「伊吹の里 旬彩の森」、伊吹山ドライブウェイ、スーパー「フタバヤ 長浜店」など