産地レポート

トップページ産地レポート胡蝶蘭 訪ねた人 東近江市「花匠」 川口正さん

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胡蝶蘭~訪ねた人 東近江市「花匠」 川口正さん

滋賀から届ける引き締まった胡蝶蘭

東近江市「花匠」 川口正さん

ランの大家に基礎を学ぶ

「幸せが飛んでくる」という花言葉を持ち、開店祝いや新築祝い、周年祝いなど、さまざまな祝いの場面に贈られる胡蝶蘭。熱帯原産の花ですが、今は温度管理されたハウス栽培で季節を問わず出荷することが可能になっています。そんな胡蝶蘭を県内トップの規模で栽培しているのが、東近江市「花匠」の川口正さんです。
「父が観葉植物農家で私も高校生のときから、その道を意識していました。高校卒業後は専門学校に進学し、当時流行っていたバイオテクノロジーを学びました」。
その後3年間、バイオテクノロジーを用いた花の品種改良などで有名な富山昌克氏の下で、世界の洋ランや園芸のイロハを学んだという川口さん。実家に帰ってから本格的に胡蝶蘭づくりを始めました。それまでのシンビジウムから徐々に移行し、現在は胡蝶蘭のみで経営しています。気候面では滋賀県は決してランの栽培に向いているとは言えません。しかし、東西を結ぶ交通の要衝であるため、関西からでも関東からでも市場の「今日欲しい」という注文に迅速に対応できるという強みがあります。
「花匠」では、会社や店などの祝いに贈られる大輪のほか、個人での贈り物に適したミディサイズやミニサイズなど幅広く胡蝶蘭を取り扱っていて、年間の出荷数は約10万株。滋賀には花の市場がないため、一度他府県の市場を通して滋賀の花屋に並びます。宅配発送代行をしており、花屋への注文を通して川口さんのつくる胡蝶蘭をプレゼントすることが可能です。

手頃なミディサイズの胡蝶蘭簡単に持ち運びできる手頃なミディサイズは個人の贈り物にも好適。

定番の白以外にもピンク、赤、紫などの胡蝶蘭定番の白以外にもピンク、赤、紫など、贈る目的に合わせて自由に色を選べます。

2年後を見越して苗を仕入れる

「花匠」では主に、台湾で2年育てられた苗を輸入し、ハウスで半年栽培しています。そのため、2年後の計画を立てて苗の品種や数を決めなければなりません。
「台湾は胡蝶蘭の品種改良では世界トップです。20年くらい前から毎年、台湾まで新しい品種を見に行っています」と、会社の未来がかかった決断にはぬかりありません。仕入れた苗は18〜25℃に管理されたハウス内で育てます。約40日後に花芽が伸び始めますが、葉の間から花芽が上に伸びていく姿はまるで別の生き物のよう。花芽はその後上下反転したL字を描くように伸び、4カ月経った頃には花が咲き始めます。鉢に植え替え、スポンジで花の向きを揃えたのち、消費者に届くまでの時間を考え2〜3個つぼみが残った状態で出荷します。一般的に会社や飲食店などの祝いの場に並ぶイメージがある白大輪の胡蝶蘭は、入学・卒業や転勤など人の移動するイベントの多い3月や10月に、ミディサイズは母の日がある5月に出荷が多くなります。

胡蝶蘭の温度管理ずっと25℃以上で育ってきた苗が、それまでよりも低い温度に当たることで花芽分化を始めます

うまくいかないから面白い

川口さんのつくった胡蝶蘭の花芽を触ってみると、硬く芯の通った印象を受けます。
「肥料や水の与え過ぎは良くないです。控えめにしながら、でも光にはしっかり当てること。そうすると、花芽も硬くなり葉の状態もまっすぐ綺麗な、引き締まったよい株になります。ハウスの環境を出ても花がよく持ちます」。現在のハウスは2017年に建て替えたもの。同時にパソコンを使ったハウス環境管理システムを導入し、ICT技術を使ったスマート農業に取り組んでいます。この環境ならば栽培中のトラブルとは無縁と思いきや、そんなことはなく、病気や虫の悩みは尽きないようです。しかし、その難しさがやりがいにもなっています。
「もし胡蝶蘭がいつでも順調に育つものだったら20年以上もつくり続けてこなかったかもしれません。思い通りにいかないことを乗り越えて良い胡蝶蘭をつくる面白さがあるから続けてこられた気がします」。

胡蝶蘭づくりを支えるシステム管理川口さんの胡蝶蘭づくりを支えるシステム管理画面。温度や湿度のほか日射量も表示されています

胡蝶蘭のハウス内ハウス内の様子。大量に必要な電気をまかなうため、発電設備の導入を検討しているそうです

発電設備の導入を検討する川口さん「発電設備があれば、もし地域が停電になっても自社だけでなく地域も助けることができる」と、町の未来も見据える川口さん

(取材日:2021年1月26日)