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産地レポート

いもが苦労する〝芋地〟が粘りの秘密

愛荘町3集落のいもが凄い

東に鈴鹿山脈の稜線が望める、見晴らしのいい湖東平野の畑地

若林繁夫さん

「竜頭」と呼ぶいもの頭

「今年は雨が足らんかった。どれも小さいなぁ......」。東に鈴鹿山脈の稜線が望める、見晴らしのいい湖東平野の畑地。畝(うね)にスコップを入れ、1本1本そおっと掘り出しながら話すのは、やまいもの生産者・若林繁夫さん(72)。例年700グラム前後の物が多いのに比べ、今年は500グラム前後と小ぶりなのだそう。収穫が始まる10月中旬、1反半(約1,488平方メートル)に立てられた11本の畝の上に見えるのはワラと土だけ。「竜頭」と呼ぶいもの頭が1センチほど出ているのを確認して、掘り起こしていきます。

ゴツゴツ、でこぼこした土色のやまいもは、ここ秦荘の名産品。滋賀県愛知郡愛荘町(旧秦荘)の安孫子、東出、北八木の3集落で採れたものが「秦荘のやまいも」と呼ばれます。この地でやまいも作りが始まったのは、約300年前。伊勢参りのお土産として持ち帰られた伊勢芋がルーツといわれ、以来良い形のいもを選抜して、もとの丸い伊勢芋とは違った秦荘オリジナルの伝統野菜として愛され続けてきました。

独特の粘りを生むのは、いもが苦労して育つ土

粘土層の土

やまいも

秦荘のやまいもの一番の特長は、すりおろすと箸で持ちあがるほどの粘りの強さ。「いいやまいもが採れる土地を芋地といって、おいしい野菜が育つようなフカフカの土では美味しくならない。粘土層で、いもが苦労しながら育つくらいの土がええねん」と若林さんは言います。土質がものをいうため、1回作ったら翌年は水田にもどします。「1年間水に浸けることで、土の消毒になる」そう。

やまいもの栽培は実質3年かかります。収穫の最後に、畝1本分のいもを種いもとして貯蔵します。2年かけて育てた種いもを4月の初めに植え付けると、5月には蔓(つる)が出てきます。支柱を立てて、紐をかけ、蔓が上がってきたら紐に巻きつかせます。真夏の日差しを浴びた蔓は、10月に入ると枯れ始めます。完全に枯れて、自然にはがれるまで我慢。「いもは切ったら中は白いやろ?蔓を無理にちぎると、それがすぐに黒くなるんや」。無事自然にはがれた蔓と葉は乾かして「溝っこ」で燃やし、肥料代わりに敷き詰めます。それが冒頭の畑の風景だったのです。

高い畝、深い溝 出来を左右する水の管理

若林繁夫さんご夫婦

やまいも畑の特長は、40センチ近くもある高い畝。畝と畝の間の溝も、機械を使って普通の畑より深く掘ります。全ては一番難しい水加減のため。「雨は多くても少なくてもあかんし、水はけが悪くても良過ぎてもあかん。雨の量で出来の良し悪しがまるで違うんや。今年のように足らん時は溝に水を流してやる。土の表面じゃわからんから畝の側面を見て、乾いてるな~、流れてるな~とその都度調整するけど、中まではわからん。あとは勘やな」。50年近く作り続けていても、水の見極めは難しく、「天から降る雨が一番ありがたい」と言います。

「夏は特に水の調整が難しいし、草取りに追われる。暑いししんどいな~」。妻の三代子さんも「夏は暑さと草と虫との闘い」と苦笑い。日当たりに恵まれた畑は、逆にいえば真夏は日影がないということ。「溝っこに入って草取りしながら、倒れてしまわんよう、『お~い、生きてるけ~?』と声をかけ合いながら草取りするんよ」。

嫁入りさせるんやから、きれいにしてやらな

全体に生えたひげ根をバーナーで燃やす

収穫したいもは1週間ほど寝かせた後、仕上げへ。1本ずつ手に取り、全体に生えたひげ根をバーナーで燃やして軍手で包むよう土と燃えた根をさすり落としていきます。すると、あら不思議、皮が光沢を帯びてつるつるとおいしそうな姿に。「根の灰で磨くから光沢が出る。嫁入りさせるんやから、時間をかけてきれいにしてやらな~。これも大事な仕事やから、ちっとも苦にならん」と愛おしそうに撫でています。

今、秦荘のやまいも農家は26軒。67歳が若手で、上は80代。後継者探しは深刻な問題です。「技術も体力もいるしんどい仕事やから、なかなか若い人には勧められへん」。とは言いながら、「毎年楽しみにして買いに来てくれるお客さんがニコニコして『ああ、今年も手に入った~。嬉しいなぁ』と言ってくれると、また頑張って作ろうと思う」とニコニコ。三代子さんは「収穫していて、いいのが出てきた瞬間はたまりませんね~」とこちらもにっこり。700グラムくらいですっとスタイルのいいのが、料理がしやすい「美形」なのだそう。

作り手の愛情と自然の恵みを受けて、今年のやまいもの粘りも一級品に違いありません。

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