トップページ > 特集 > 9月特集 杉谷なすび&とうがらし 産地レポート

産地レポート

手間がかかる。その分、味に自信あり

江戸時代から地元で細々と栽培

平井治良さん

「杉谷とうがらし」と「杉谷なすび」

滋賀県南部に位置する甲賀市の杉谷地区。ここには、江戸時代から栽培されてきた伝統野菜があります。「杉谷とうがらし」と「杉谷なすび」、どちらもこの地方の土と気候だからこそ作れるものですが、加えて、姿形が個性的で味も良し。「杉谷とうがらし」は「く」の字型に曲がったユニークな形で、皮が薄く甘みがあるため、生でも食べられます。「杉谷なすび」は直径10センチほどのジャンボサイズで、丸くてかわいい巾着のような形と黒に近い色。こちらも皮が薄く、実が軟らかいのが特徴です。

地元の人々こそ日常的に食してきたものの、市場に出ることのほとんどなかったこの野菜たちを、"デビュー"させようという動きが出始めたのは、15年ほど前のことです。
寺井節次さんの呼びかけで、自家用に細々と作り続けてきた生産者に声をかけて種を集め、約10年前から栽培がスタート。平成25年に、前身である「杉谷なすび部会」から「杉谷伝統野菜栽培部会」へと名称変更し、現在、8名の部会員が「杉谷うり」も加えた3種類を作っています。「杉谷うり」は長さ15センチほどの薄緑をしたカプセルのような形。肉厚で青臭さのないさっぱりした味で、そのまま生でサラダや、お漬物にします。

「明治生まれの世代は、なすびを天秤棒にかついで信楽まで売りに行ったそうやし、私らの世代も田の隅でとうがらしを育てて、子どものころから食べてきました」と現在、部長を務める平井治良さん(70)は話します。

味がいいから手間をかけても作る

杉谷とうがらし

杉谷なすび

杉谷の伝統野菜を積極的に作って売っていこうーそんな動きは、「地域の食文化を伝えていきたい」「珍しくておいしいといった、より付加価値の高い商品づくりをしていきたい」という思いから生まれました。

3月に種をまき、5月の連休前後に定植、6月末から収穫が始まり、8月上旬に収穫ピークを迎える生産サイクルは、通常の夏野菜より長い上、「皮が薄いため病害虫に弱い」「気候の影響を受けやすい」「水分が早く失われるため、日持ちしにくい」などのデメリットがあります。

全国的に出回る「千両なす」などは、品種改良を重ねて皮を厚くした、強くて作りやすい品種なのです。
それでも、「皮が薄いということは食べやすくて、実の味がみずみずしいということ。味がええから、手間がかかっても作りたいし、食べてほしい」と平井さんは言います。

一番の苦労は「種」。秋に、枯れるまで残しておいた作物から来年用の種をとりますが、「枝によって種の出来が違うし、交配してしまったり、育ててみたら半分以上収穫できなかったこともあります」。
そんな時は、部会のメンバーで種や苗を融通し合って乗り切ってきました。

みずみずしく 実に甘み

杉谷なすび

杉谷とうがらし

上杉清美さん

枝を1本1本、上からひもで吊り下げます。

畑では8月が収穫の最盛期。杉谷とうがらしは、雑草除けのマルチを敷き、支柱を立て、風で倒れないようにフラワーネットをかけて、作られています。実をちぎってそのままかじってみました。軟らかくて、苦みがほとんどなく、ほのかな甘みもあり、みずみずしいこと!

「さっと炒めてみそ汁の具に」とは平井さん。「種を取り、フライパンで炒めて、塩昆布と一緒に醤油とみりんで炊きます」とは部会メンバーの一人、上杉清美さん(58)。

実が1個300~350グラムもあるずっしりした杉谷なすびは、マルチと支柱に加え、実の重みで下に落ちないよう、枝を1本1本、上からひもで吊り下げます。こちらも手間がかかります。

おすすめの食べ方は?「ステーキ、塩もみして浅漬け、田楽、はさみ揚げ......。生で食べると梨の食感に似てるな」 と次々に平井さんが紹介してくれます。実が軟らかいのに、火を通しても崩れにくいのだそう。
「ほかの人のより、おいしいものができた時は、うん、ちょっと優越感やね~」とにやり。

手をかけたら育ってくれる 性に合ってるかなぁ

平井さんはいま、杉谷とうがらしを5アール、杉谷なすびを1アール栽培。

平井さんはいま、杉谷とうがらしを5アール、杉谷なすびを1アール栽培しています。本格的に野菜を作り始めたのは6~7年前。腰を痛め、病気で引退し、快復した後のことです。60歳までは材木の買い付けや伐採を請け負う仕事に就いていました。

「朝早くからの作業と野菜中心の食事で、いまほど規則正しい生活を送ったことはないくらい」と笑います。
「露地での野菜栽培は天候次第やから気苦労が多いし、材木や米と比べて実入りが少ない。出荷に行くガソリン代を初めて意識したのも、野菜づくりを始めてから。でもね、珍しがってもらえて、手をかけたらきれいな作物に育ってくれて、食べておいしかったと言ってもらえる。ほんまはこういうのが性に合ってるかなぁ」と少し照れくさそうに笑います。

杉谷でしか作れない野菜、杉谷でしか食べられない野菜。誇りと愛情をもって育てられていました。

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