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2018年1月の特集 酒・酒米【産地レポート】酒・酒米

産地レポート 酒・酒米

米どころの滋賀は酒どころでもあり、県内には滋賀県酒造組合に加盟する酒蔵が33あり、今回訪れた甲賀・湖南地域には、その約1/3が集まっています。良質な近江米、鈴鹿山脈の伏流水、山からのおろしなど、酒造りに欠かせない絶好の風土がこの地域にはあります。
今回は1805年創業の老舗酒蔵「北島酒造」を訪問し、14代目の北島輝人さんに、酒造りと近江の酒米についてお聞きしました。

200年以上続く老舗の蔵元。店が併設され、奥に酒蔵がある。
200年以上続く老舗の蔵元。店が併設され、奥に酒蔵がある。

伝統の味 『御代栄(みよさかえ)』 と挑戦の味 『北島』

山々に囲まれた盆地に位置する「北島酒造」。JR草津線「甲西」駅から徒歩約5分の場所にある酒蔵です。毎年10月から4月まで日本酒の仕込み作業が行われ、早朝に見られる酒米の蒸し上がる湯気はこの時季の風物詩となっています。

「北島酒造」を代表する伝統の酒が『御代栄』。長年愛されてきた定番のブランドです。一方、北島さんが15年ほど前から挑戦して造り始めた日本酒が『北島』。現在、この2大ブランドを展開されています。

新ブランドの『北島』は、北島さんのお燗好きが高じて、燗酒にしたときの旨さと、食事に合う味を追求した日本酒です。呑めば食べたくなる、食べたら呑みたくなる・・・をめざして造った食中酒は、奥行きのある深いあじわいが特徴だそう。その秘密は、この『北島』の多くの酒に取り入れられている"生酛(きもと)造り"にあるようです。

写真左が『北島』、右が『御代栄』。
写真左が『北島』、右が『御代栄』。

酒米や設計の違いで約50種類以上のシリーズがある。
酒米や設計の違いで約50種類以上のシリーズがある。

昔ながらの"生酛(きもと)造り"を取り入れた酒造りで、奥行きのある味わいに

「完成度の高いデジタル音源のCDよりもアナログなレコードの音が心地良かったり、LEDの灯りよりも白熱球に温かみを感じたりするように、日本酒も近代的な完成度の高い造り方ばかりでなく、アナログ的な造り方を取り入れることで、逆に日本酒らしい味わい深さを人は感じ取ってくれるのではないかと思っています」と北島さん。「北島酒造」では、近代の製造法を取り入れつつ、"生酛造り"と呼ばれる伝統製法も取り入れ、応用しながらの酒造りを行っています。

酒造りの大きな流れは、①精米→②浸漬(しんせき)→③蒸米→④麹(こうじ)造り→⑤酒母造り→⑥本仕込み→⑦発酵→⑧上槽(じょうそう)→⑨ろ過→⑩貯蔵→⑪瓶詰めなどの工程を経て完成します。
この工程の中でも酒造りの要とされているのが、④の麹造り。蒸米にカビの一種である麹菌を種付けし、麹を造る工程です。
そしてこの製法においてもう一つ大切なのが、⑤の酒母造り。アルコールを造る酵母を育てる工程です。この酵母を育てる中で空気中の悪い菌が入らないよう一般的には人工乳酸を添加するのですが、"生酛造り"は蔵に生息する空気中の乳酸菌を呼び込んで悪い菌の侵入を防ぎ酵母を育てます。自然にまかせるため一般的な酒母よりも時間と手間がかかるのです。

麹造りをする部屋「麹室」。
麹造りをする部屋「麹室」。室内の温度は30度。日夜蔵人による懸命な作業が行われている。

秒単位で変わる浸漬時間は、蔵人の経験と勘が物を言います

「麹造りも重要な工程ですが、うちでは②の浸漬の工程を特に丁寧にするよう心がけています。ここがきちんとしていないと良いお酒ができないんです」。浸漬とは、前日に米を水に浸す工程のこと。米100%に対して水130%の比率で米に水を吸わせる作業ですが、その日の温度、湿度、酒米の種類、精米歩合などによって水を吸う時間が秒単位で変わるため、蔵人の経験と勘を総動員して注意深く見守る必要があります。そのため配電盤の扉にはそれらの情報を日々細かく書き留めていきます。

毎日のデータが書き記されている。
毎日のデータが書き記されている。

「酒屋万流と言って、同じデータで酒造りをしても酒蔵ごとに味は異なります。それぞれの設備や酒造りの責任者である杜氏(とうじ)の五感も違うので、どんなに真似をしたとしても同じ味に仕上がることはないんですよ」と北島さん。一筋縄にはいかない酒造りの奥深さが、日本酒の魅力の一つであると感じさせられます。

酒造りでよく見かける櫂(かい)入れ。
酒造りでよく見かける櫂(かい)入れ。櫂棒で酒母やもろみをかき回す作業のこと。
成分をまんべんなく混ぜることと、温度を均一にする目的がある。

ぷくっぶくっと泡立って発酵しているのは、微生物が働いている証拠。
ぷくっぶくっと泡立って発酵しているのは、微生物が働いている証拠。

約10品種の酒造好適米を使っています

「北島酒造」の酒米は、95%が滋賀県産。"滋賀渡船(わたりぶね)6号"、"玉栄(たまさかえ)"、"吟吹雪(ぎんふぶき)"、"山田錦"等々、10品種ほどの酒米を契約農家さんから仕入れて使っています。
これだけの品種を取り扱っているのは珍しいのだとか。"みずかがみ"や"日本晴"など食用米での醸造にもチャレンジされています。この滋賀県の新品種"みずかがみ"や、永らく栽培が途絶えていた幻の酒米"滋賀渡船6号"をいち早く醸造に使ったのも「北島酒造」。
「山田錦の親系統にあたる品種で、その血筋の良さに惹かれてお酒を造ってみたいと思い、醸造に取り組みました。"滋賀渡船6号"は、背丈が高く倒れやすい、脱粒しやすい、病害虫に弱い、生育は遅いと農家さん泣かせの米ですが、米の元祖的な存在なので今後も絶やすことなく使い続けていきたいですね。今では、滋賀の酒米と言えば"滋賀渡船6号"と言われるほどになっています」。

今年仕込んでいるお米の見本を品種ごとに分けて残している。
今年仕込んでいるお米の見本を品種ごとに分けて残している。

米の味が引き立つようできるだけシンプルな酒造りに

「うちの酒は、できるだけシンプルに造っています。その方が米そのものの味が引き出せるから。時代とともに新しい酵母菌も出てきていますが、昔ながらの酵母菌を使っています。新しいものは、香り高く飲みやすくできているんですが、米の違いが出しにくくなるんですよ」と北島さん。滋賀県産の酒米の魅力を尋ねると、「まずはその質の良さ。そして環境こだわり米として育てられているので、原料として安心して使えるのも大きな魅力です」。

14代目北島輝人さんが語る日本酒の面白さに引き込まれる。
14代目北島輝人さんが語る日本酒の面白さに引き込まれる。

熟成酒を皮切りに、世界へ挑む

北島さんに日本酒への夢をお伺いすると、「燗酒、生酛造りと自分がやってみたいと思うお酒を造ってきて、今、関心があるのは熟成酒ですね。日本酒は通常、冬の半年で造って、次の年の1年でほぼ売り切るため、熟成酒というものがあまり知られていません。私は3年経過したものを熟成酒と呼んでいます。日本人よりも外国の方の方が熟成の価値を理解してくれるので、昨今では海外への輸出が増えているんですよ。熟成酒を突破口にして、日本酒を世界へ広げていきたいですね」と。

伝統を守りながら、新たな世界へ挑む「北島酒造」。近江の地酒が世界を席巻する、そんな日が早く来ることを心待ちにしています。

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