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産地レポート

地形と気候とこまめな世話が育む色と味 みょうが

色、形、香り、味...全てが絶品

岐阜県の県境にある伊吹山

杉居はるのさん

滋賀県の北東部、岐阜県との県境にある伊吹山は、神が宿る山として、また冬は豪雪地帯として、夏は固有種を含む多様な野草が群生する美しい山として知られています。

米原市甲津原は、その伊吹山の北に位置する奥伊吹にあります。スキー場へ向かう車道の途中、姉川端の草が生い茂る一帯に、その畑はありました。植物に詳しくない人にとっては草むらにしか見えないその場所こそが、みょうが畑。杉居はるのさん(80)が20年ほど前から丹精して育てています。

冷ややっこやカツオのたたきなどに添えられる薬味としておなじみのみょうが。独特のさわやかな香りと、シャキシャキとした食感、ピリッとした辛みが魅力ですが、杉居さんの作るものは、淡く透き通るようなピンク色、ふっくらとした形、豊かな香り、えぐみの少ない味......と、どれをとっても一級品です。

「そりゃあ、まめに世話してるからな」。そう言いながら、80歳とは思えないしっかりした足取りで、イノシシ除けのトタンの柵を外し、朝露に濡れる緑の葉をかき分けて2畝ほどの畑へと分け入ります。

「絶品」を育む朝晩の気温差と空気

丈が1メートルほどもある緑の葉

みょうがの偽茎

びっしりと茂った、丈が1メートルほどもあるこの緑の葉は、みょうがの偽茎。春には「みょうがたけ」として食用にされます。「花みょうが」とも呼ばれるおなじみのみょうがは、その葉に覆われた地面すれすれに、ぽこぽことピンクの顔を出していました。

杉居さんのみょうがが絶品なわけの一番は、畑の場所。標高が高く朝晩の気温差が大きいこと、美しい空気、そして適度な日当たりと湿気です。みょうがは、日当たりや水はけがあまりよくない土地の方が育ちやすく、地下茎で増えるため畝は立てません。「40年前に減反で田んぼができなくなった時に、別の場所でおじいさんと一緒にみょうがを植えたのが最初」だそう。

そして、杉居さんの労を惜しまぬ世話も「絶品」が育つ大きな要因です。5月にはまだ雪が残るこの辺りも、夏には草が生い茂ります。毎日のようにひたすら草を刈り、刈った草を日当たりのいい場所に積み上げて干すことを繰り返します。「夏の草刈りは一番重労働や。朝4時から10時と3時ごろから夕方までひたすら草刈り。汗と土だらけになるから、1日に2回も3回も着替えなならん」。草を乾かすためには、晴れた日の作業になるから、よけいつらいと言います。

声をかけ手をかけて、自然の味を引き出す

ピンク色をした秋みょうが

淡い緑色をした小ぶりの夏みょうが

淡い緑色をした小ぶりの夏みょうがの収穫は、お盆前から8月末ごろまで。9月上旬から末ごろまでは、ピンク色をした秋みょうがの収穫です。1週間に80~100キロは収穫するというから、たいした量です。これを全て洗って、大きさや巻きによって秀L、秀Mに選別して、やっと出荷です。

収穫が終わると、土づくりのために石灰をまき、夏の間に干しておいた雑草を敷き詰めます。冬の到来とともに畑は厚い雪に覆われ、春の連休のころに新芽が出てくると、5月末~6月に地下茎で増えたみょうがが、詰まり過ぎて小さくならないよう、間引きします。

「石灰と敷き草以外は、肥料も何もやらない自然のまま」と杉居さん。「収穫しながら、きれいに育ったなぁと声をかけてやります。病気が出たら、畑全部を諦めなくてはならんから、おまえらもせっかく成ったのに、残念やなぁと」。

収穫したうち、出荷しない6~7センチの小ぶりのものは梅酢に漬けて自家用に。「全体がピンクに染まって、きれいでおいしいおかずになるよ」。花の穂も三杯酢に漬けて料理のあしらいにする、と教えてくれました。

「ええのができたなぁ」の言葉がご褒美

平井さんはいま、杉谷とうがらしを5アール、杉谷なすびを1アール栽培。

杉居さんはこの甲津原で生まれ育ちました。「子どものころは、田んぼに行くとお茶を沸かすために火を焚いていて、お昼どきにその火でみょうがを焼いて、味噌を付けて食べたもんです。おいしかった~」。

 一人で黙々と作業する杉居さん、昨年までは夫の勝一さんと夫唱婦随でした。勝一さんは2年3カ月闘病し、今年7月、前夜に「お世話になりました」と直筆の手紙を書いて亡くなりました。
「19歳、結婚式が初対面やったけど、おとなしくてよく働く人やった。けんかもするけど、どこへ行くにもじいさんと2人やった」としみじみ。今は遺影にその日の畑の様子を報告する毎日です。

自身も働き者です。4人の子育てと畑仕事を両立し、53歳から会社勤め。今も冬の間、スキー場の従業員食堂で食事作りをしています。「煮ものがおいしい」と評判なのだとか。

「みょうがは赤過ぎるのも、黒っぽいのもだめ。えぐみが少なくてシャキシャキした食感の秀Lは、しっかり巻いていて、美しいピンクで、大きさもこれくらい(指で9㎝ほどの長さを示して)」と言います。
「市場の人に 『きれいやなぁ、ええのができたなぁ』 と言われるのが一番うれしいね」と声に熱がこもります。

「ずっと働いてきたし、今も働く。だからこうして不自由なく暮らさせてもらってる。ありがたいなぁ」

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