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8月の特集 水口かんぴょう

巻き寿司やちらし寿司の名脇役、甘くてやわらかい「水口かんぴょう」。
江戸時代からの産地・甲賀市水口から、太陽のめぐみを濃縮した完全天日干しのおいしさを、お届けします

水口の夏の風物詩

宇川ずし
宇川ずし
写真提供:小島朝子
宇川ずし。米2升~7升が入る専用の木箱で作られる。

巻き寿司でしっぽりと主張する具。やわらかに甘辛く煮付けた「かんぴょう」。
滋賀県には、かんぴょうの発祥地とも言われる産地があります。それは甲賀市水口(みなくち)町、「水口かんぴょう」でその名を知られています。
かつて東海道の50番目の宿場町「水口宿」として栄え、歌川広重の錦絵「東海道五十三次」にも、水口宿は「かんぴょう」を干す夏の女性達の場面が描かれています。諸説ありますが、1600年ごろ水口岡山城主 長束正家が作らせ、その後下野国壬生(栃木県)に伝わったとされていることから「かんぴょう発祥の地」とも言われています。

今回は、この「水口かんぴょう」の産地の一つ宇川地区におじゃましました。なんでも、宇川地区は、毎年4月25日の宇川天満宮の祭礼にかんぴょうをふんだんに使った押し寿司(宇川ずし)が必ず作られるという土地柄。この宇川ずし、寿司飯の上に塩ぶりの他、かんぴょうなどの具材を敷き詰め、竹の皮をはさみ幾層にも積み重ねたとても豪快な押し寿司なのだとか。

かんぴょうづくりは、太陽と、風と、惜しまぬ手間

ユウガオの実
かんぴょうの原料となるユウガオの実
中には10kgの"横綱級"もある。

宇川地区でかんぴょうづくりに取り組んでいるのは、甲賀市シルバー人材センター登録の宇川地区在住者十数名の方々。
朝7時前、収穫されたばかりのユウガオが軽トラックに運ばれて畑から到着。バレーボールをふたまわりほど大きくした実の薄緑色が、朝の冷たい空気の中、一際さわやかです。かんぴょうは、7月中旬~8月上旬にユウガオというウリ科の実を収穫し、それを紐状に細長く剥き乾燥させたもの。


チェック
かんぴょう専用の機械でひとつひとつ帯状に剥いていきます

かんぴょうづくりは、まずユウガオの実を、機械にかけて外皮を削り、幅3センチ、薄さ2~3ミリに真っ白な実を細長く剥くところから始まります。
グルグルと廻るユウガオの実に機械の刃を当てると、シュルシュルと勢いよく白い帯ができあがっていきます。その長さは、長いものでなんと3メートル超。瞬く間に受け取るカゴがいっぱいになっていきます。


天日干しされるかんぴょう
白いかんぴょうが、すだれのよう

そして出来上がった白い帯をひとつひとつ丁寧に竿にかけ、天日干ししていきます。

「昔はよく、家のかんぴょうの干し番をしたものだわ」と懐かしそうに話してくれたのは、竿掛けをしていたメンバーの女性。

そう、乾物であるかんぴょうは、乾燥の工程がとても重要。水口かんぴょうは機械に頼らず、約1日半、天日で乾燥。もちろん、急な雨などで濡れることは厳禁です。干している間は、外出せず家で作業するのが鉄則とか。
さらに、この乾燥具合にもコツがあるそうで、夏の強い日差しと適度な風が、かんぴょうにとってのベストコンディション。乾燥させすぎると袋詰めの際「割れ」が生じたりすることもあるそうで、その取り入れ時期の見極めは、経験を積まないと難しい。

「かんぴょうづくりは手間がかかる。ユウガオを育てるのも、収穫後剥いて干す作業も、そして出荷のために束ねるのもです」とJAこうか水口営農経済センターの谷崎真也さん。

「高齢化や農地の転用などで、かんぴょうづくりの生産者は少なくなってきています。でも、水口かんぴょうは、水口の伝統野菜。なんとかしようと、甲賀市シルバー人材センター登録の宇川地区在住者十数名で協力して5年前から生産しています」と話してくれたのは、同センター農業支援コーディネーターの宿谷光典さん。

水口かんぴょうは、代々種を自家採種している独自品種。苗を育てるところから、つる切り、わら敷き、人手による受粉、有機肥料主体の土づくりと、春から夏まで手間をかけて育てます。

「昼と夜の寒暖差がある気候、水はけがよく乾燥しすぎない土壌が、昔から水口がかんぴょうづくりに適する土地だったのだと思います。30年ほど前まで水口の多くの家庭では、ユウガオを育て、自家用にかんぴょうをつくっていましたよ。うちもそうでした」と宿谷さん。とはいえ、やはり一手間のかかるかんぴょうは、「巻き寿司やかやくご飯で遠足や運動会などの時に食べていた」と、"ハレ"の食が中心であったとのこと。

このようにたくさんの手間をかけてできる「水口かんぴょう」は、太陽の恵みを受けおいしさがぎゅっと濃縮しています!

味わいの紹介-水口かんぴょうで巻き寿司に挑戦!

かんぴょう
かんぴょう
無漂白なので乳白色の優しい色の水口かんぴょう

脇役ながら存在感のある味を出し、お料理を引き立ててくれる「水口かんぴょう」。しかしながら、生産量が少なく、かんぴょうを生産する農家は、JAこうか・かんぴょう部会の13戸のみで、なかなかの稀少品。多くは県内のホテルや寿司店に出荷され、JAこうか・花野果市(はなやかいち)などでも求めることができます。
水口かんぴょうは、柔らかく、味がしみやすく、出汁を良く含むという特長があり、それに加え、収穫後に硫黄等で漂白しない「無漂白」というのも、安心して使ってもらえる理由のようです。巻き寿司はもちろん、和え物や、ゼリーなどに料理されて出されているそうです。

今回は、かんぴょうの代表選手「巻き寿司の具」としてのかんぴょうのおいしい煮方について、近江八幡市にある寿司店「ひさご寿し」寿し主任の中村泰久さんにおうかがいしました。
「関東ではかんぴょうだけを具として巻いたものを"のり巻"というくらい、かんぴょうは巻き寿司に欠かせないもの」と中村さん。「ひさご寿し」で出される3種類の巻き寿司のいずれにも、水口かんぴょうが手に入る時期は必ず水口かんぴょうを、使われているそうです。
その巻き寿司に使う水口かんぴょうのおいしい煮方のレシピをご紹介します。

■材料
  • 水口かんぴょう:100~150g
  • だし:1リットル
  • 砂糖:160g
  • うすくち醤油:90cc
  • 塩:10g
■作り方
  1. 軽く洗って、一昼夜水につけておく。(2~3回ほど水を交換する。)
  2. かんぴょうを水炊きする。つめが立つくらいの硬さに炊いたら、水にさらし粗熱をとって冷ます。
  3. 固く絞り、だし、砂糖、うすくち醤油、塩を鍋にいれて沸騰させ、かんぴょうを入れる。
  4. 弱火で20~30分煮る。 ※煮すぎるとかんぴょうが溶けてしまうので、要注意!
  5. だしの中で冷まし、固めに絞ったら巻き寿司の具として巻く。

「おいしさのポイントは、一旦冷ますこと。野菜は冷める時に味がしみこんでいきますからね」と中村さん。
巻き寿司用にかんぴょうを買っても余らせてしまいがち、ということを伝えると、「水炊きした時点で、小分けして冷凍保存しておくと便利ですよ。甘辛く炊いたものが余ったら、細かく刻んでちらし寿司などの具にもいいですし、"酒のおつまみ"にそのまま食べるというお客さんもいますよ」と教えていただきました。甘辛い味とあの歯ごたえで、お酒もすすみそうですね!

巻きずし
ひさご寿しさん直伝レシピで「かんぴょう煮」をつくり、巻き寿司にチャレンジ!
食べるとかんぴょうがしっかりと主張する巻き寿司に

レシピに基づいて、水口かんぴょうを使って巻き寿司に挑戦しました。
まずは、できあがったかんぴょう煮をそのままいただきました。ひさご寿しさんで見せていただいたかんぴょうより色合いが薄く、半信半疑ながら一口ぱくり。かんぴょうのイメージを一新するおいしさです。「天然の甘み」が出ていて、かめばかむほど味がでてきます。巻き寿司の具にすると、食べた時にかんぴょうのふんわりした柔らかさをより一層、実感!かんぴょう干しの風景を思い出しつつ、甘辛い味を堪能しました。

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観光情報写真:(社)びわこビジターズビューロー