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産地レポート

米原市朝妻筑摩の田辺孝夫さん

漁期は5月から6月下旬 最盛期の漁獲量は日に60~80尾

田辺孝夫さん

ハス

「くへ」の字の口と体長約30センチの銀色の体、大きな胸ビレ......。淡水魚「ハス」は、もとは琵琶湖と三方五湖の固有種で、コイ科には珍しい魚食性です。一般にはあまりなじみがないこの魚、その理由は後述するとして、実はとても「味のあるヤツ」です。

今では数少ないというハスの刺し網漁師の一人、田辺孝夫さんの日課は、早朝5時ごろに船を出し、前日の夕方5時ごろに仕掛けた刺し網を回収するところから始まります。刺し網漁は、魚の通り道に網を仕掛けて獲る漁法です。漁期は毎年5月から6月下旬の一時期だけ。始まったばかりの5月初旬は日に20尾くらいですが、最盛期ともなると60~80尾が網にずらりとかかって、銀色に光りながら、ぴちぴちと跳ねるさまは「そりゃあ、壮観や」と田辺さんの顔がほころびます。

ハスがかかったままの刺し網を船に積んで戻り、自宅の庭まで運んで、ここで妻の通子さんと2人で、網からハスを外していきます。「(女房は)漁師の娘で、子どものころからやってるからね。外す速さは、今もかないません」と笑います。

"週末漁師"歴約60年 網目を使い分ける刺し網漁

週末漁師 歴約60年 網目を使い分ける刺し網漁

81歳の田辺さんは、60代半ばで定年退職するまでサラリーマンでした。でも子どものころは釣り、大人になってからも漁が大好きだったので、"週末百姓"ならぬ"週末漁師"を続けてきました。

獲る魚はハスのほか、フナ、アユ、ハエ、モロコと多岐にわたりますが、中でも好きなのがふなずしの材料となるニゴロブナを獲る投網で、一時は地域で「投網愛好会」を主宰していたほど。
「ぱぁっと網を投げて、引いた時の感触でどれくらい魚が入ってきたかがわかるんや。この瞬間がもう何ともいえん」と目を輝かせます。

一方、刺し網は「一尺に12の目、9の目、8の目」と大きさの違う網を何種類も用意し、獲りたい魚に合わせて使い分けます。風があると網を仕掛けられず、魚も来ないので、天候を見極めることも漁師にとって大切な技です。

獲ったハスは専門店へ 新鮮なうちに調理

新鮮なうちに調理

ハス料理専門店「やまに」10代目店主の横田勝彦さん

ところで、ハスが一般に流通しにくい理由の一つは、その"足の早さ"にあります。魚食性の魚には、待ち伏せ型と追い込み型がありますが、ハスは俊敏に獲物を追って泳ぎ回る追い込み型。常に動いていないと弱るため、網にかかった途端に弱り始め、網から外した時にはほとんど死んでしまいます。味も時間と共に落ちていくため、流通に乗りにくかったというわけです。

田辺さんは獲ったハスを1~2時間のうちに全て、港近くのハス料理専門店「やまに」に卸しています。「やまに」では、すぐに下処理をして調理するか冷凍します。看板料理は、塩焼きと、みそをつけて焼いた魚田。これが驚きのおいしさ!
身には何ともいえないうまみがあります。魚食性であること、俊敏に動き回ることが身の味を良くしているのでしょう。

これほどおいしくても流通しにくかったもう一つの理由が、小骨が多いこと。「食べる人は年々減っています。でも、新鮮なハスは臭みがなく、生きたものが手に入れば『車切り』という洗い(=刺身にし冷水にくぐらせたもの)にもできます。淡泊ながらとてもおいしい魚です。多くの人にこの味を食べてもらいたいですね」と10代目店主の横田勝彦さんは話します。

好きなことやからしんどいなんて思わん

好きなことやからしんどいなんて思わん

田辺さんが「ここでないと、いいのが獲れんのや」と網を掛けるのは天の川の河口。「安曇川や姉川でも獲れるけど、天の川で獲れたのが一番おいしいと言ってくれる人が多いんですわ」

これまでで一番獲れたのが1回で約100尾。今も多い日は80尾くらいかかるので、ハスがかかったままの網を漁場から外すのも、網を運ぶのもかなりの重労働のはずですが、「好きなことやから、しんどいなんて思わん思わん」とにこにこ。

30年乗り続けている愛船(名前はなく、登録番号で呼ぶ)も、網を干したり収納したりする作業小屋も、清掃が行き届き、整然と片付いています。漁と魚、漁を支えてくれる全ての人とモノへの思いが伝わってきました。

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