産地レポート

尾上漁港でイサザを手にする松田さんご夫妻

産地レポート
イサザ

イサザ

~訪ねた人:「朝日漁業協同組合」松田さん~

ふだんは琵琶湖の湖底に暮らすイサザ。
ひょうきんな顔してるけど淡白でおいしいよ!

尾上漁港でイサザを手にする松田さんご夫妻。松田さんは漁師歴約50年。

琵琶湖固有のハゼの仲間

イサザは、琵琶湖固有のハゼの一種。「躍り食い」や「卵とじ」で有名なシロウオの俗称も「イサザ」と言いますが、まったく別の魚です。昔からなぜか獲れなくなる時期があることから、漢字も「魚」偏に「少」と書いて「魦」(いさざ)と読ませます。佃煮の他「じゅんじゅん」という鍋で食べられることが多く、白身でありながら濃い味付けに負けない独特の風味があり、湖魚のなかでもファンが多数います。

普段は水深70m前後の深いところにすんでいますが(ちなみに琵琶湖の最も深いところは約100m)、桜の花が咲く4月頃、湖岸近くの岩礁帯にやってきて、浅瀬で産卵。オスは孵化するまで卵の世話をします。主な漁場は、琵琶湖でも水深が深い湖北が中心になっています。

長浜市にある尾上(おのえ)漁港は、竹生島(ちくぶしま)や琵琶湖の最北端に突き出た葛籠尾(つづらお)半島が間近に迫る風光明媚な港。漁船からのおこぼれを狙うユリカモメやサギなどが飛び交う中、朝9時前に漁港に伺うと、すでに漁師の松田さんが奥さまと一緒に今日とれた魚を選別していました。

「ほら、これがイサザやで」
松田さんが差し出した魚は、体長7cmほど。薄茶色で頭と口が大きく、ひょうきんな顔をしていて、なんだかかわいい!
「腹が白いやろ。普段は湖底に、腹をつけて暮らしてるんや。」

しかも、口やお尻から・・・、ぷくっと浮き袋などが出てます。
「このイサザは深さ70mぐらいのとこで獲ったもんやから、水面に出たとき水圧の変化で浮き袋が飛びでよるんや」

春の時期は体全体にヌメリがある 淡褐色の体と白い腹が特徴的 (左)イサザ。春の時期は体全体にヌメリがある。
(右)淡褐色の体と白い腹が特徴的。産卵期になるとメスの腹部は黄色く色づく。

琵琶湖の深くから漁獲される冬の味覚

琵琶湖は、竹生島の南あたりで深くなっていますが、イサザの漁場もそのあたり。漁港から船で5分ほど走ったところ、葛籠尾半島の先端である葛籠尾崎のすぐ近くにあります。

イサザ漁は、主に冬季に沖(ちゅう)びき網で行われます。これは、長いロープの先端に取り付けた網で底を引きずり、イカリで固定した船へ巻き上げるという、底びき網の一種。湖底から獲られたイサザは、水面に出ると水圧の関係で、お腹を上にした状態で浮き上がってくるので、それをすばやく網ですくいとるんだとか。

穏やかに見える琵琶湖ですが、強風が吹き荒れることもあり、湖に慣れた漁師さんが遭難することも。特に冬場、突風にあおられて湖に落ちれば、凍るような水の中では致命的。それゆえ漁に出る前は、雲のカタチや風向きを見て、悪い風が吹かないかを見極められるようになることが、一人前の漁師への第一歩です。

「伊吹山のてっぺんに雲が出ると、北西の風が吹く前触れ。漁に出られんから私らは"貧乏風"とゆうとるけどな(笑)。大津から吹いてくる南西の風もよくないし、春先に比良山から吹きつける比良八荒(ひらはっこう)も恐ろしい。こんな、急に吹く強風を私ら漁師は"ハヤテ"と呼んでるんや」
結婚以来ずっと一緒に漁をする奥さまも、何度か「頭の上に波がきて死ぬかと思った」というほど。そんな琵琶湖の変貌ぶりは、澄んだ湖面からは想像もできません。

尾上漁港 北湖に浮かぶ竹生島 (左)尾上漁港。左奥に見える山並みが葛籠尾半島。
(右)北湖に浮かぶ竹生島。尾上漁港のすぐ目の前にある。

松田さんのイサザ漁は、朝の6時頃に港を出発。以前は漁場で3回操業したといいますが、最近はイサザが少なく、今日は2回操業しただけ。「昔は1回で50~60kgは獲れたもんやが」と松田さんはため息。「今日は12~3kgぐらいかなあ。トロ箱の半分にもならん」

もともとイサザは、周期的に漁獲量が大きく変動することが知られていますが、多いときで400tを超えていた漁獲量が、現在は数十tにまで減少したまま回復してきません。一時はまるでとれなかった時期があり、「幻の魚」といわれていたほど。ここ数年で少し漁獲が盛り返してきましたが、最盛期にはまだまだ及びません。

イサザの沖びき網漁のロープは、約1000mにおよぶ 深いところで操業するイサザの沖びき網漁のロープは、約1000mにおよぶ。漁船はロープで一杯。

湖北名物、イサザの「じゅんじゅん」

イサザは、大豆と煮た「イサザ豆」や佃煮のほか、湖北地域では、すき焼き風に煮た「じゅんじゅん」という料理でよく食べられています。松田さんの家では、「ネギと油あげ、麩を入れ、醤油と砂糖で甘辛く煮る」のだそう。正月の定番料理で、帰省した家族や親族が楽しみにしている郷里の味なのだとか。

「イサザは、白身の淡泊な味でおいしいですよ。特に秋から1月頃のものは、骨も柔らかくておいしい」と奥さま。
ほかに、唐揚げや味噌汁にしても食べるといいます。
「そやけど、今は数も少のうなって、みんな売りもんに回してしまうから、家で食べるぶんはないわな」と、松田さんも少し寂しそう。

少なくなったイサザですが、冬季に長浜市など漁港近くの道の駅や湖魚専門店では、"運"がよければ手に入れることができます。冬の琵琶湖の貴重な味覚を召し上がってください。

(取材日:2012年3月16日)

■イサザに関するお問い合わせ:滋賀県漁業協同組合連合会(電話:077-524-2418)