生でも保存食でも両方ウマい「八珍」

琵琶湖八珍の魚介類は、貴重な蛋白源の保存食として長く伝えられてきた歴史がある。
ふなずしは、東南アジアから伝わった「なれずし」の料理法が琵琶湖沿岸で独自の進化を遂げたもの。全国各地に「なれずし」はあるが、これほど広範なエリアで親しまれている例は珍しい。
滋賀県漁業協同組合連合会のホームページでは、家庭でも出来るふなずしの作り方を公開している。

スジエビの代表的な料理に「エビ豆」がある。大豆と一緒に炊く家庭料理だが、滋賀県下の多くの水産加工品店で売っているし、地元の居酒屋や食堂、料理店でも定番のメニューだ。瀬田の唐橋東詰近くにある蕎麦の[吾嬬(あずま)]ではお酒を頼むとおつまみにエビ豆が登場。ビールが止まらなくなる。「1年のうち何度も、なくなったら作るというのを繰り返しています」と店主の礒田定征さん。瀬田シジミのかき揚げなども名物だ。

エビ豆
魚富商店

堅田の浮御堂(うきみどう)そばで90年近く佃煮などを営む[魚富商店]では季節ごとに琵琶湖八珍の魚を扱っているが、秋になるとスジエビの醤油炊きが登場。店主の竹端尚(たけばたなお)さんのお薦めは、マヨネーズと和えてトーストにのせて食べること。パスタに和えてもウマそうだ。大人のおやつと言える。

「パン+琵琶湖八珍」の組み合わせは、湖岸のカフェやレストランで定番化しつつある。JR近江高島駅近くの一軒家[高島ワニカフェ]。メニューにビワマスのリエットを使ったクロスティーニ(小さなトースト)や、寒い時期に獲れる若鮎を使ったアンチョビならぬ「アユチョビ」をとろけるチーズと一緒食べる「若鮎のアユチョビトースト」が人気だ。「『アユチョビ』は瓶に詰めて売っているので、家でも楽しめます。一度試してみてください」と店主の岡野将広さん・純子さん夫妻は語る。

若鮎のアユチョビトースト

獲れた若鮎を岡野さんの店に届けているのは、マキノ町の漁師・中村清作さん。今、琵琶湖の漁師は700人を切っていて、しかも50代以下は4分の1。後継者や新しい就業者が足りない状況だが、30代前半の中村さんは漁のかたわら様々なイベントやシンポジウムに顔を出して琵琶湖の重要性をアピールし、子ども向けの教室で自ら包丁を持って料理を教えたりもする。

マキノ町の漁師・中村清作さん

「琵琶湖は関西に住む1,450万人の生活用水。魚と人が両方生きるための湖です。そこで育まれた命をいただくことの大切さを少しでも知ってほしいですね。琵琶湖の魚は一度、獲れたてをお刺し身で食べてみてください。ビワマスのおいしさは知られていますが、オスのニゴロブナもぜひお試しを。八珍ではないけど、ギンブナの刺し身はコリコリしてこれもおいしいです」と語る。

中村さんは一人乗りの船で、風のある日以外は漁に出てシジミなどを獲る。「こんなに面白い仕事はないですよ。まさに狩猟ですからね」。20代の後輩も2人いる。

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